研究課題/領域番号 |
15K12195
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研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
内田 昌男 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境計測研究センター, 主任研究員 (50344289)
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研究分担者 |
熊田 英峰 東京薬科大学, 生命科学部, 講師 (60318194)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 北極海 / 海氷 / IP25 / バイオマーカー / ノースウインドリッジ海嶺 / 最終間氷期 |
研究実績の概要 |
本研究では、北極域における将来の温暖化増幅メカニズムの解明の一環として、過去の温暖期において北極海氷量の実態把握を行い、北極海の海氷が自然変動の中で、どのような歴史的変遷を辿ってきたかどうかを明らかにする。今年度は、北極海より採取された海底堆積物試料を用いて、海氷藻類起源のIP25有機分子の抽出、精製条件、ガスクロマトグラフ・質量分析計(GC/MS)によるIP25有機分子の定量に関する検討を行った。条件検討の一環として、1)ベーリング海、北極チャクチ海の表層堆積物試料を用いて、IP25の抽出条件の検討を行った。表層堆積物を用いた検討を踏まえ、さらにチュクチ海ノースウィンド海嶺、水深1000mで採取されたピストンコア試料の分析に着手した。表層堆積物については、ベーリング海(北緯58.3度~63度)におけるIP25濃度は、0~0.37ng/g-drysed.であった。また、チュクチ海(北緯66.6度~74.5度)では、0.69~7.25 ng/g-drysed.との結果が得られた。一方、ピストンコア試料については、過去、15.5万年間に渡る層準から、無作為に選んだ30点について分析を行った。IP25濃度は、0~1.6 ng/g-drysed.の結果が得られた。IP25のGC/MSでの定量においては、抽出試料に含まれる夾雑成分のUCMハンプにより不正確な結果を導くことがわかった。そのため,本研究では、IP25有機分子を高感度に検出する条件を確立した。来年度は、高感度に検出するための処理を進めながら、より正確なIP25濃度の検出を進め、最終的に北極チュクチ海における過去の海氷量変動の変遷に関する知見を得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
北極海より採取された海底堆積物試料を用いて、IP25有機分子の抽出、精製条件、GC/MSによるIP25有機分子の定量に関する検討を行った。その結果、従来、海底堆積物試料中脂質バイオマーカーの分析プロトコルで得られる脂肪族炭化水素画分(N1画分)にIP25有機分子を回収できることを確認した。また、GC/MS測定ではパルスドスプリットレス注入と選択イオンモニタリング(SIM)を組み合わせ、大量の夾雑成分のUCMハンプに埋もれたIP25有機分子を高感度に検出する条件を確立した。これらの条件を考慮しない場合のIP25濃度は、上記のピストンコア試料では、濃度が最大4.31.6 ng/g-drysed.となり、処理した場合に比べ、その値は、約2.5倍の結果となることがわかった。このように、堆積物からの抽出における大量の夾雑成分の存在は、UCMハンプに埋もれたIP25濃度の検出の際の大きな誤差を生じさせることがわかった。これにより、北極海の海氷が自然変動の中で、どのような歴史的変遷をしてきたかどうかを明らかにすることが可能となった。本研究では、さらにこれらの分析技術を下に、ベーリング海、北極チャクチ海の表層堆積物試料、チュクチ海ノースウィンド海嶺、水深1000mで採取されたピストンコア試料の分析を進めた。最終的に、北極チャクチ海の過去15万年間の海氷量の変遷復元をめざす。
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今後の研究の推進方策 |
27年度に北極海海底堆積物試料を用いた検討により、堆積物中のIP25有機分子の定量が可能となった。しかし、多数の試料の分析を進めていくに従って、堆積物中のIP25濃度が極めて微量なため、検出感度をかせぐために大量の夾雑成分(マトリックス)が混在した状態でGC/MS注入をせざるを得ないことがわかった。このような測定は、GCのキャピラリーカラムの劣化を早め、多数のサンプルの測定をこなすことが困難である。そこで、硝酸銀カラムなどの新たな生成技術を駆使しながら、N1画分に含まれる炭化水素類を飽和・不飽和で分離精製し、IP25測定のスループットを向上させることを目指す。今後は、上記の検討を進めながら、IP25の検出感度をより向上させる必要のある試料について、N1画分における炭化水素類を飽和・不飽和で分離精製についてもさらなる検討を進めながら、コア試料を含め実試料のIP25データのさらなる高精度化を目指す。これら分析条件をクリアすることは、IP25値の同定・定量の精度を向上させ、ひいては、IP25値による海氷量の変動の精度向上が大いに期待される。すなわち、IP25検出如何が示されることは、試料が検出された時代における海氷の存在の有無に関する知見につながることになることから、本課題を如何にクリアできるかが、海氷量変遷の復元における知見の精度を向上させる、ひいては、IP25が海氷量復元のプロキシーとして利用できるかどうか検証するうえで重要な課題であるといえる。
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次年度使用額が生じた理由 |
IP25の測定で使用するGC/MSの故障により、測定及び試料前処理の一部が翌年度に持ち越しとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
IP25の分析に関連して、試料の抽出、GC/MS測定のための消耗品並びに共同研究者間の旅費等に使用する。
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