本研究では、北極域における将来の温暖化増幅メカニズムの解明の一環として、過去の温暖期において北極海氷量の実態把握を行い、北極海の海氷が自然変動の中で、どのような歴史的変遷を辿ってきたかどうかを明らかにする。今年度は、北極海より採取された海底堆積物試料を用いて、海氷藻類起源のIP25有機分子の抽出、精製条件、ガスクロマトグラフ・質量分析計(GC/MS)によるIP25有機分子の定量に関する検討を行った。条件検討の一環として、1)ベーリング海、北極チャクチ海の表層堆積物試料を用いて、IP25の抽出条件の検討を行った。表層堆積物を用いた検討を踏まえ、さらにチュクチ海ノースウィンド海嶺、水深1000mで採取されたピストンコア試料の分析に着手した。表層堆積物については、ベーリング海(北緯58.3度~63度)におけるIP25濃度は、0~0.37ng/g-drysed.であった。また、チュクチ海(北緯66.6度~74.5度)では、0.69~7.25 ng/g-drysed.との結果が得られた。一方、ピストンコア試料については、過去、15.5万年間に渡る層準から、無作為に選んだ30点について分析を行った。IP25濃度は、0~1.6 ng/g-drysed.の結果が得られた。IP25のGC/MSでの定量においては、抽出試料に含まれる夾雑成分のUCMハンプにより不正確な結果を導くことがわかった。そのため,本研究では、IP25有機分子を高感度に検出する条件を確立した。さらに高感度に検出するための処理を進めながら、より正確なIP25濃度の検出を進め、北極チュクチ海における最終氷期最寒期から15万年間前までの海氷量変動の変遷に関する知見を得た。
|