研究課題
深海における堆積物表層の長期変動、すなわち底層流の強弱や海洋表層の一次生産量の変化、底生生物の種類や生息密度、そして底生生物による海底表層の生物撹乱の多少といった現象を多点・同時観測によって明らかにするため、低コストで開発可能な海底地震計組み込み型のパラサイト観測ステーションを開発した。このステーションは組み込みマイコンおよび付属カメラと低消費電力タイマーから構成される。深海調査研究船「かいれい」KR17-04航海において、このカメラを搭載した海底地震計を日本海溝(4027m、5375m)に設置、それぞれ18日、11日の連続撮影に成功した。4027mは砂礫が堆積、小型のナマコ類を主体とする生物群集が見られた。5375mは泥質堆積物が堆積、ゴカイ、クモヒトデ、大型のナマコ類が卓越することが判明した。4027mでは流れによる堆積物の再懸濁が確認された。5375mでは生物による活発な堆積物表層の混合が行われ、6時間毎の画像の差から、主に生物の移動と堆積物内部での摂食行動や糞の放出など確認された。この装置にCTDを取り付け水温・塩分の取得も行うよう、樹脂を電波誘導体とする水中無線通信の評価も行った。海水を入れた水槽内にWi-Fi機能付きビデオカメラ(防水容器入り)を設置、棒状に加工した樹脂(SEC社ジェラフィン)を接続、片端を水面に出した状態でWi-Fi無線通信を行えることを確認した。この手法に関し、総務省に電波法に関する見解を確認したところ、アンテナの改造にあたる可能性を指摘された。そこで、アンテナの改造に当たらないことを示す実験を技適認証機関にて実施、結果を添付し法令適用事前確認手続(ノーアクションレター)を行った結果、電波法違反には当たらないとの回答を得たので、法律違反にはならず使用できることとなった。以上より、パラサイト観測ステーションの実用性と拡張性を確認できた。
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東北海区海洋調査技術連絡会報
巻: 67 ページ: 17-21