研究課題/領域番号 |
15K12200
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
中里 亮治 茨城大学, 広域水圏環境科学教育研究センター, 准教授 (30292410)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 放射性セシウム / 浪江町 / 食物連鎖 / 水生昆虫 / 渓流魚 |
研究実績の概要 |
本研究の目的の一つは、福島県浪江町を流れる空間線量強度の異なる渓流において、放射性セシウム(以降Cs)を含まない魚を標識放流し、標識魚の再捕獲とそのCs濃度のモニタリングを実施することで、放流魚へのCs移行メカニズム解明やCs移行速度を推測すること。また渓流間でそれらの値が異なる場合には、天然魚、生息環境の底質・河川流下物および餌生物に含まれるCsの分析結果を総合し、その差異をもたらす機構を解明することである。 27年度は、空間線量の異なる3渓流ABC(計画では2渓流であったが台風による大水等に備えて予備を設けた)で5月下旬に魚種Ⅰと魚種Ⅱの標識放流をした。放流後、合計7回の再捕獲調査と同時に天然魚、環境試料および餌生物の採取をした。また餌を食べないように魚を篭に入れて渓流内に設置し、えらを通過した水からのCs移行量を調べる実験を行った(in situ実験)。 環境調査の結果、空間線量率は渓流A、B、Cの順に高い値であった。河川近傍の山土、渓流の堆積物、川底落葉および渓流水のCs濃度は全て渓流A、B、Cの順に高かった。水生昆虫および天然魚のCs濃度も渓流A、B、Cの順に高く、河川環境中のCs濃度が高い渓流ほど、生息する生物が高濃度に汚染されていることが分かった。放流実験の結果、渓流Aに放流した魚のCsの移行速度が渓流Cのそれよりも5~7倍速く、河川環境中の放射性Cs濃度が高い渓流ほど魚体への放射性Cs移行速度が速かった。また、魚種ⅠのCs移行速度は魚種Ⅱの約2倍程度と大きな差があった。胃内容物の解析から両種の食性は類似しており、この差は代謝量やCs排出速度などの違いによって生じたと推測された。in situ実験の結果、水経由での魚へのCs移行はほとんどないことが明らかとなった。 上記のことから、魚類への放射性Cs移行の要因は水生昆虫等の餌経由が主であると推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年間の全体計画では、研究実績の概要で述べた計画以外に、サケ科である渓流魚のイワナ・ヤマメ類の一部個体群が降海する性質を応用し、体内からのCsの排出を促す目的で海水と同程度までカリウム濃度を調整した水や、基礎代謝を高める微細気泡発生装置を装備した水槽内でイワナ・ヤマメを飼育するなどの手法による魚体内のCs低減化方法の開発を計画している。27年度計画では、食品基準値を大きく上回る天然イワナ・ヤマメ個体を選択してCs低減化実験に供するために、捕獲された魚のCs濃度を生きたまま速やかに測定する技術の開発を行うこと、さらにイワナ・ヤマメの高い生存率が維持できる範囲での高いカリウム濃度条件を見つける飼育実験を予定していた。 今年度は、研究実績の概要で述べた野外放流実験が予想以上の成果が得られたため、野外調査の回数を当初の予定よりも増やした。これによって、予定していた飼育実験のすべてを実施することができなかったが、捕獲された魚のCs濃度を生きたまま速やかに測定する技術についてはおおよその目処がついたこと、飼育室を低温に維持するためのエアコン装備などハードウエアの整備など実験の下準備が整った。
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今後の研究の推進方策 |
28年度は、昨年に引き続いて計画通りに放流実験を実施するほか、大型水槽を用いたイワナおよびヤマメ体内のCs低減化に関する実験を計画している。 この実験では当初私が所属する研究センターの敷地内にある20坪のビニールハウス内に置かれた1トン容量の大型FRP水槽を使用し、その水槽にイワナ・ヤマメの好適水温10-15℃を保つための2t水槽用投げ込み式クーラーを据え付ける予定であった。 しかし動力の問題で2t水槽用投げ込み式クーラーの設置が難しくなったことから、代替え措置として、エアコンが装備された専用の部屋(ウエットラボ)を用意し、部屋全体の温度を低く維持しながら多数の水槽を使用して、ほぼ同規模の実験を行うこととした。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度は当初の予定よりも旅費の額が大きくなり、28年度についてもより詳細な野外データを取得するために、27年度以上に調査頻度を高くしたいと考えている。 そのため、消耗品費の一部を節約することで次年度に繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
旅費および消耗品費の一部に使用する。
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