研究課題
放射線被ばくが発がんリスクを増大させ、遺伝子変異はその中の最も重要なステップのひとつであると考えらえている。放射線による遺伝子変異発症メカニズム解析はこれまで困難であった。ヒトゲノムの中で、第7染色体上にあるBRAFのV600E点変異が起きるのは30億分の1の確率である。本研究では、様々な条件の放射線照射によりBRAF のV600E 変異が実際に生じるのか否かを調べた。そのために、まず大量のゲノム検体からごく少数の変異を検出する方法を確立するためにデジタルPCR装置を用いた。まず、すでにBRAFについて野生型およびV600E変異があることが報告されている大腸がん細胞株を用いて解析を行った。HCT116では、野生型BRAFが5120コピー (100 %)であったのに対して、HT29では4204コピー (79.2 %)、BRAF V600E変異が1104 (20.8 %)検出された。次に、変異の発生メカニズムを探求するため急性高線量放射を1週間に1階の頻度で行い最大50Gyまで照射した。BRAF V600E変異はHCT116では129237コピー中ゼロであった。また、低線量率慢性照射0.02 mGy/分により720時間で1000 mGy 照射した細胞では468520コピーを解析したが、やはりBRAF V600E変異は検出できなかった。次に、細胞培養液に種々の濃度のアリストロキア酸Bを添加し、BRAF V600E変異の頻度を確認した。少数の変異は観察できたが、濃度と変異頻度との相関性は確認できなかった。最後に、DNA損傷修復に関わる遺伝子XRCC3をノックアウトしたHCT116細胞を使用して、高線量急性照射 および低線量慢性照射実験を行った。低線量慢性照射実験を行った場合にのみ1コピーだけV600E変異が確認されたが、放射線との因果関係は不明であった。以上の結果から、今後放射線の影響による遺伝子変異の検出にあたっては特定の部位を高効率で検出する手法の開発を優先すべきであると考えられた。
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Scientific Reports
巻: 6 ページ: 20027
10.1038/srep20027.