研究課題
福島第一原子力発電所で起きた事故により大量の放射性物質が環境中に放出された。原発事故由来の放射性セシウムのうち、森林に沈着した放射性セシウムの多くは林内に留まっていると考えられている。そのため、森林内での循環及び生態系への移行などの観点から、放射性セシウムの化学状態を明らかにすることが重要である。そこで、本研究では森林における放射性セシウムの化学状態を明らかにすることを目的とした。最終年度である今年度は、福島県の森林において樹葉を採取し、オートラジオグラフ分析及びセシウム137の放射能濃度測定を行った。オートラジオグラフ分析の結果、樹葉の先端に向かって放射能が強くなっていく様子が観察された。また、セシウム137の放射能濃度も同様に先端に向かって高くなっていた。以上のことから、スギ樹葉において放射性セシウムが生長点に向かって転流していることが分かった。昨年度までの研究成果として、EXAFS(広域X線吸収微細構造)法を用いてセシウムが樹木の各部位(樹葉、心材、辺材、樹皮)に外圏錯体として静電的に吸着することを明らかにした。これはスギ、アカマツ、コナラ、コシアブラのすべての樹木に対して同様の結果であった。以上のことから、セシウムが樹木中の組織に吸着したとしてもそれほど強く固定されるわけではなく、比較的移行しやすい化学形態であることが示された。また、すべての樹木が同様のEXAFSスペクトルを示したことから、こうした傾向は樹種による大きな違いはないと考えられる。以上のように研究期間全体を通じて、セシウムは樹体内において移行しやすい化学形態であることが示された。したがって、森林内では放射性セシウムは樹体内の特定の場所に留まるというよりは循環していると考えられ、多くの研究者により報告されているモニタリング調査の結果と調和的であると言える。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
Geochemical Journal
巻: 52 ページ: 173-185
10.2343/geochemj.2.0501
巻: 52 ページ: 186-199
10.2343/geochemj.2.0496
巻: 52 ページ: 145-154
10.2343/geochemj.2.0517
Scientific reports
巻: 7: 12407 ページ: 1-7
10.1038/s41598-017-12391-7