研究課題
我々は有機リンやホルムアルデヒド等の被爆が主原因とされるシックハウス症候群の患者単球においてNeuropathy Target Esterase(以下NTE)の活性が健常者に比べて高いことを報告した(2013)。有機リンの曝露後に神経症状が生じることが知られているが、そのメカニズムについては良くわかっていない。本研究では、有機リン関連疾患の発症機構解明を究極の目的としている。まずヒトNTEをコードする遺伝子PNPLA6を導入したマウスを作製し,シックハウス症候群の原因物質の一つとされるフタル酸エステルの経皮吸収とエステラーゼの関わりについてのモデルを構築した。結果としてヒト型のNTEを高発現するマウスを得ることができた。有機リンとNTEの複合体検出については、一過性のNTE高発現293細胞を利用し、ゲルより抽出したバンドがNTEであることを質量分析系で確認していたが、このクルードな系ではNTE-DDVP複合体の検出には至らなかった。そこで、大腸菌で活性を有するペプチド部分のN末およびC末にタグを配置して”NTE”を大量に精製することを試み、100 マイクログラム程度のNTEを精製可能な系を確立した。精製したNTEについてはそのエステラーゼ活性の確認を終えている。この精製NTEとDDVPとの複合体をin vitroで形成させ、質量分析法にて同定する実験を進行中である。また、最近、いくつかの小脳疾患でPNPLA6に点突然変異が見いだされており、小脳疾患モデルとしての活用を念頭に、PNPLA6点突然変異マウスをCRISPR/Cas9システムにて作製した。また貴研究所柿田明美教授よりヒト脳標本を分与いただき、タンパク質発現等の解析を行った。
2: おおむね順調に進展している
293細胞で大量にneuropathy target esteraseを産生させたが、tagの切断がうまくいかず苦労していたが、大腸菌の系に切り替えて順調に精製等が進んだ。
複合体を形成後、アルキル基が外れてAged Esteraseになることが遅延性の神経障害に結びつくと考えられているが、この反応を進めるには特殊なバッファー系が必要なようである。その系を早急に確立したい。また、本学の保有する質量分析器ではパワー不足であることが判明しているので、複合体等の解析には他研究しせつ質量分析器を使用させていただくよう交渉中である。
消耗品の入荷が遅れていること、及び研究計画に変更が生じ、分子生物学的技術に長けた人物を臨時職員とおして雇用するため。
消耗品の購入及び臨時職員の雇用を行い、研究計画のスムーズな進展を図る。
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Japanese Journal of Clinical Ecology
巻: 25 ページ: 49-54