研究課題
福島原発事故以降、人の放射線影響についての社会的関心は高く、放射線による健康影響の解明が求められている。しかし、低線量・低線量率の放射線影響については未解明な部分が多く、その評価の元となるデータ自体が乏しいのが現状である。本研究では、ヒト正常細胞を用いて、放射線による酸化ストレスと細胞内シグナル伝達経路への影響を解析した。我々の解析から、1か月間の長期低線量放射線照射では、慢性的なDNA損傷応答が誘導され、DNA損傷応答に必要なエネルギーを供給するため、ミトコンドリアのエネルギー代謝が亢進することを明らかにした。さらに、エネルギー生産の副産物としてミトコンドリアから発生する活性酸素が照射細胞に酸化ストレスを誘導することを明らかにした。我々は、活性酸素の標的分子として、細胞の生存に関わるAKTの脱リン酸化酵素Protein Phosphatase 2A(PP2A)を同定した。活性酸素は、PP2Aの活性化部位のシステイン残基を酸化し、不活性化する。このため、AKTの負の制御が破綻してAKTが恒常的に活性化し、下流の細胞周期制御因子サイクリンD1の分解が抑制される。サイクリンD1の発現制御異常は、DNA複製を阻害してDNA損傷を引き起こし、ゲノム不安定性の誘導に関与する。以上のことから、放射線照射後の酸化ストレスによるAKT経路異常が、ゲノム不安定性の誘導に関わることを明らかにした。本研究の成果により、抗酸化剤は、放射線による酸化ストレスを軽減することで、放射線防護に役立つと考えられる。今後は、AKT経路の制御異常を指標にして低線量長期放射線影響を高感度に検出し、放射線による健康影響の解明が期待される。
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