研究実績の概要 |
本邦は世界6位の排他的経済水域を有する。そこには膨大な海底資源が存在するとされており,「海底資源大国」となることが期待されている。しかし深海底という特殊な環境から,開発にあたって必須となる環境影響評価の方法論が(国際的にも)いまだ確立されておらず,開発計画が進まない一因となっている。本研究では,評価の前提要素である「対象範囲」を限定するため「深海の海流」を調べることを提案し,その手法確立を目指す。昨年度まで化学トレーサーとして用いる六フッ化硫黄等を液化ガスとして深海で撒布する際に高圧ガスに関わる諸規定による制約があることが判明した。このため,今年度は液化せず,気体の状態で深海まで持ち込み撒布する場合の条件検討を行った。例として沖縄トラフ鳩間海丘での検討を行った。火口地形を半径300m・比高300mとすると容積は100ギガリットルとなり,トレーサーを0.01 mol撒布し均質に拡散すると濃度は100,000fmol/Lとなる。これはGC-ECDでの検出には十分な濃度である。気体トレーサー0.01molは1気圧で0.2L相当であり,深海での圧力保持採水器に用いている容器(容積0.15L)と同等であるため,これを転用することで撒布容器として利用可能であることが明らかとなった。この事実は,カルデラなど半閉鎖的な地形を背景とする海底資源の開発であれば,気体トレーサーの撒布により影響の範囲を調べられることを示唆している。上記の条件検討に加え,コバルトリッチクラストやレアアース泥の存在が知られる伊豆小笠原海溝海域において撒布前のバックグラウンド濃度レベルを定量するための試料採取を実施した。
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