放射能汚染水における放射性セシウム等の大半の放射性物質を除去する技術は確立されているが,三重水素(トリチウム)の効率的除去技術は未確立である.本研究では,純水(H2O)との融点の違い(H2Oは0℃,T2Oは4.45℃,重水D2Oは3.8℃,HTOは2.23℃)を利用して,効率的にT2Oを分離する技術の開発に取り組んだ.申請者が既に開発した「放射冷却による製氷」技術を基礎として,精密温度制御によって低濃度D2O溶液から選択的にD2O(トリチウム水を模擬)のみを氷として取り出す原理の探求に取り組んだ. 研究初年度(2015年度)には,-20~80℃の範囲で0.01℃の分解能で温度設定できる低温循環水槽の恒温水槽内に,製作した放射冷却ユニットおよび製氷水槽(内槽)および温度安定用水槽(外槽)の2層の水槽を入れ,上部を断熱蓋で覆った装置を製作した.恒温水槽を+0.5℃に設定し,放射冷却ユニットに-25.5℃の不凍液を循環し,製氷水槽内で製氷が進むことを確認した後,2 wt%の重水溶液を使い,約24時間の製氷を行い,凍結分と非凍結分を分離してそれぞれの融点を測定したところ,両者の間に0.02℃の融点の差が生じ,2 wt%の重水溶液が1.5wt%に希釈される(氷側への濃縮)ことを確認した. 最終年度(2016年度)には,前年度に続いての(1)凍結プロセスでの濃縮,に加え(2)融解プロセスでの分離に取り組んだ.(1)では恒温水槽温度を変化させたところ,水槽温度が高くなるにつれて固相へのHDO濃縮度が高まる傾向がわかり,水槽温度1.5℃の場合に最大濃縮度40%を得た.次に(2)で凍結させたH2O/D2O(2wt%)混合液を破砕し,0℃以上1.9℃以下に設定した恒温水槽内で半分程度を融解させて固相と液相を分離したところ1.4℃において固相への最大濃縮度13%という結果を得た.
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