研究課題
微生物生態系は、多種多様な微生物の単なる集まりでは無く、相互に関連し合い、機能を有するシステムであることが明らかとなってきた。しかも興味深い事に、環境の変化に対し、構成微生物集団がダイナミックに変動しながら、システムの恒常性を維持している。すなわち、要素である個々の微生物の振る舞いとシステム全体は相互依存的な関係にある。本研究の究極の目標は、この様な微生物生態系の根本原理(固と全体の関係)に係る分子機構を理解する事である。しかし、実際の環境サンプルでは、あまりの複雑さ故に混迷を深める事になりかねない。そこで本研究では、遺伝情報が全く同じである単一菌株を用いて、純粋連続培養系における微生物単一集団からの機能的多様性の発現とシステム調和機構の解明を目的とする。そのためにまず、本研究では純粋培養系を対象とするものであるが、コントロールとしてC8株培養上清が環境の微生物群集構造に及ぼす影響を把握するため、水田土壌を接種源し、フェノールを唯一の炭素源とする培地で回分式連続集積培養を実施した。その結果、添加系と未添加系では異なる微生物群集構造へと変化したことが示され、供試菌株として有効であると判断された。そこで、相互作用物質の同定に係る研究に着手した。供試菌株として一般環境微生物であるPseudomonas sp. C8株を用い、フェノールを唯一の炭素源とする培地で好気的に連続集積培養を実施した。時系列的に培養上清を採取し、Ralstonia sp. R2株の増殖に及ぼす影響を調べた。その結果、連続集積培養30日目~50日目における培養上清のみが増殖阻害効果を示した。このことから、C8株は恒常的に相互作用物質を生産している訳ではないことが明らかとなった。現在、上清から分離を繰り返し、およそ500 Da前後の水溶性画分に相互作用物質が含まれることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
H27年度までに、連続集積培養系の動力学的解析、機能の異なる微生物の動態評価(H28年度も継続)、相互作用物質の同定(H28年度も継続)を計画として挙げていた。これらの研究項目の内、「相互作用物質の同定」以外はおおよその目標を達成できたと考えている。メタトランスクリプトーム解析およびプロテオーム解析を通じて相互作用を詳細に解析する予定であったが、C8株のゲノム解析が順当に進んだことから、計画を変更し、マイクロアレイを用いた評価に切換えることを検討中である。
1)作用機序の解明:相互作用物質がどのような物質なのか、現時点では全く見当がついていない。そのため、某かの情報を得るため、大腸菌の1遺伝子を破壊した変異株ライブラリー(KOコレクション)を用いて、C8株由来の相互作用物質がどのような作用機序を示すものなのか、に関する知見の獲得を目指す。大腸菌はフェノールで生育できないため、グルコースを唯一の炭素源とした最小培地で実験を行う。すでに、変異株大腸菌の増殖、また本培養条件下で野性株大腸菌はC8株由来の培養上清によって増殖抑制を受けることを確認している。2)相互作用物質の解析:これまでC8株をフェノールを唯一の炭素源に用いた培地で連続集積培養をすることで相互作用物質を含む培養上清を得ていた。しかし、平成27年度の研究において、本培養条件下においてC8株は恒常的に相互作用物質を生成していないことが判明した。一方で、C8株はグルコース濃度に依存した相互作用物質の生成を行うことが、別の実験により見出された。そこで、グルコースを用いた培養条件下で、相互作用物質を含んだ上清と含まない上清を比較し、その差分から相互作用物質の取得を図る予定である。3)機能の異なる微生物の動態評価:どのような微生物群に影響を及ぼしているのか、を把握するため、より詳細な解析が可能なdeep sequence解析を実施する。これにより、微生物生態系において希少微生物群の動態、微生物間の相互作用あるいは変遷をより明確に捉えることが可能となる。
すべて 2015 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Frontiers in Microbiology
巻: 6 ページ: 1148
10.3389/fmicb.2015.01148
http://cheme.eng.shizuoka.ac.jp/wordpress/futamatalab/