微生物生態系は、多種多様な微生物の単なる集まりでは無く、相互に関連し合い、機能を有するシステムであることが明らかとなってきた1)。しかも興味深い事に、環境の変化に対し、構成微生物集団がダイナミックに変動しながら、システムの恒常性を維持している。すなわち、要素である個々の微生物の振る舞いとシステム全体は相互依存的な関係にある。本研究の究極の目標は、この様な微生物生態系の根本原理(固と全体の関係)に係る分子機構を理解する事である。そこで以下の研究を実施した。 本研究の着想の基となった異属3菌株微生物混合培養系(唯一の炭素源としてフェノールを使用)における微生物群集の調和を理解する事が目的である為、まず供試3菌株Pseudomonas sp. C8株、Ralstonia sp. P-10株およびComamonas testosteroni R2株のゲノム解析を実施した。C8株およびR株は既に解析が終了し、C8株は論文として発表した。これら3菌株のフェノール代謝遺伝子群を同定した。その結果、C8株におけるフェノール代謝遺伝子群は分散している一方、他の2菌株は一連の代謝遺伝子がオペンとなっていることが見出された。微生物の調和機構を理解する為、基質の利用形態を把握する為、代謝遺伝子の転写を特異的にモニタリングした結果、初期物質であるフェノールを特定の微生物が代謝し、代謝産物のカテコールを分け合うという調和機構であることが判明した。 純粋培養系ではC8株が他の2菌株の増殖を著しく抑制するため、その応答機構の解析を実施した。そのためKEIO Library3285株を用いて評価した結果、同化プロセスに必要なエネルギーを特異的に排出系の代謝エネルギーとして利用させ、結果的に増殖抑制を誘発していることが推定された。今後、微生物生態系の調和がどのように制御されているのかを理解する必要が有る。
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