研究課題/領域番号 |
15K12237
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
吉田 奈央子 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10432220)
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研究分担者 |
片山 新太 名古屋大学, 学内共同利用施設等, 教授 (60185808)
押木 守 長岡工業高等専門学校, その他部局等, 助教 (90540865)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | バイオレメディエーション / 脱塩素化 / ジクロロエタン / Geobacter |
研究実績の概要 |
本年度は、Geobacter sp. AY株を10Lジャーファーメンターを用いてバッチ培養し、培養条件を適切に制御することでバイオマス収率と培養にかかる時間を短縮し簡便にバイオマスを得る培養技術を確立した。さらに、培養過程における有機塩素化合物濃度と細胞増殖を計算予測した。 第一に、AY株を10Lジャーファーメンターを用いてバッチ培養を行った結果、培養開始後2.5日(36時間)で、全ての10mM 12DCAがエチレンへと脱塩素化した。本培養物に、10 mM 12DCAを5回追補填した結果、最終的に、5~10時間で10 mM1,2-DCAがエチレンに脱塩素化されるまでに脱塩素化にかかる時間が短縮されたこれまでのところ、最大で7×10の11乗 cells/Lの細胞密度、バイオマス量として4.9×10の12乗 cellsを3-4日の培養期間で得られた。この細胞量は、バイオーグメンテーション時に10の6乗 cells/Lを投入することを想定した場合、約5千立米分に相当した。続いて、電子供与体と受容体のみを連続供給する実験を行ったが、供給ラインからの酸素汚染により培養容器内の嫌気度が保たれなくなる不具合が生じ、培養方法を検討する必要がある。続いて、AY株の休止菌体を用いて1,2-DCA脱ハロゲン化速度および生菌/死菌割合を測定した結果から最小二乗法により求めた親和定数、阻害定数および最大速度を基質阻害および細胞増殖/死滅を考慮した反応速度式に代入し、リアクター内の12DCAおよびエチレン、遊離Cl濃度、細胞数の時間的変化を計算した。比較の結果、12DCA、エチレン、遊離Cl濃度については実測値と計算値がおよそ似た値を示した一方、細胞密度の推移において実験値と計算値の差が大きく見られ、モデルの改良が求められる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画として、10Lファーメンターにおけるバッチおよびケモスタット培養試験およびバッチ培養時のAYの増殖および12DCA分解予測を予定していた。実績として、バッチ試験で実測値に類似した分解予測計算結果を得たとともに、酢酸およびジクロロエタンの連続供給システムを構築した。ケモスタット実験は実施の結果、基質供給ラインからのガス汚染が明らかになったものの、課題を解決しつつある。また、細胞数の予測計算結果が実測値と乖離していた。具体的には、従来のモデルに倣い、脱ハロゲン化呼吸細菌の遊離塩素に対する増殖収率は一定としていたのに対して、培養試験後半において細胞が凝集体を形成し、脱塩素化速度は一定である一方で細胞増殖が鈍った。言い換えれば、菌体密度が比較的低濃度である培養開始時には細胞収率が高く、菌体密度が濃い培養終了時では基質が十分供給されているにも関わらず収率が低くなる。原因として、細胞密度に応じて全体的に同化率が変化する、或いは凝集体において一定割合の細胞が増殖/死滅に割り振られ平衡するなどの生理的不均一性が考えられる。いずれにせよ、既報にない脱ハロゲン化呼吸細菌の細胞密度を達成したことで発見された課題であることから、脱ハロゲン化呼吸細菌の大量培養制御を考える上で、これらを考慮したモデルを立てることが必要であることが見いだされたものである。以上より、本研究は計画通りに進行していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、中空糸膜分離によって菌体をリアクター内に濃縮しながら処理水のみを流出する膜分離濃縮ケモスタット培養試験を計画していた。これは、申請時当初、通常のバッチまたはケモスタット培養試験では到底目標としている細胞密度を得られないと考えたためである。しかしながら、平成27年度の研究結果において膜濃縮培養を行わなくとも十分な菌体量が確保されることが示された。さらには、一定密度を超えた後はAY株が凝集体を形成し脱塩素化速度を保ったまま全体として増えない生理状態になることが示された。これより、膜分離濃縮培養を行っても菌体増殖をさらに促す効果が得られないことが想定される。一方、新たに見出された培養中の増殖収率の変化は、既報の脱塩素化菌の反応速度モデルでは細胞数の予測が不十分であることを示しており、小スケール高密度培養時の菌体の生理状態を考慮したモデルの構築が重要と考えた。そこで、平成28年度は、当初予定していた膜分離濃縮培養を行わず、10Lファーメンターにおけるバッチ/ケモスタット培養試験を繰り返し行い、培養中の細胞収率の変化が何に起因するかをつきとめ、これを考慮したモデルの構築に取り組む。
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