研究課題/領域番号 |
15K12238
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
堀 学 山口大学, 理工学研究科, 准教授 (00253138)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 繊毛虫 / ゾウリムシ / 繊毛運動 / 食胞 / 排水処理 |
研究実績の概要 |
現在,生活排水は排水処理場において,細菌や繊毛虫などの微生物に“食わせる”という原始的な方法で有機物を処理している。今後の生活排水の増加などに対して最も単純な解決方法は,微生物にもっと“貪欲に食わせる(貪食)”ことである。しかし,これまで排水処理槽に生息する微生物の能力を改変するという試みはない。そこで本研究では,排水処理場の生物反応槽に生息する繊毛虫を用いて,その繊毛運動を促進するような遺伝子変異を導入し,微小なゴミや細菌を貪欲に捕食する“大食漢”の系統を確立し,大掛かりな装置を必要としない効率的な浄化方法の開発を行うことを目的としている。 我々は,ゾウリムシでは2種のタンパク質ptRSHL1, ptRSP16のどちらかの遺伝子の発現を抑制すると,抑制した細胞の遊泳速度が,正常な細胞の約2倍にまで上昇し,食胞形成能も約1.5倍にまで上昇することを見つけている。そこで平成27年度は,ゾウリムシで確立した方法を用いて,排水処理槽に生息する主な繊毛虫である テトラヒメナ,コルポーダ,ツリガネムシの遊泳速度,および,食胞形成能を強化した系統を作成することを試みた。 その結果,テトラヒメナでは,RSP16オルソログ遺伝子を抑制することで,約1.2倍の遊泳速度をもつ系統を確立できた。しかし,食胞形成能に有意な差を持つ系統が確立できていないことから,今後,ダブルノックアウト系の作成が必要と思われる。また,コルポーダでは,遊泳速度,食胞形成能の高い系統を未だ確立できていない。ツリガネムシは,培養上の工夫が必要である。 また,排水のpHや塩濃度における食胞形成の影響についても検討しており,ゾウリムシでは,pH7以上よりもpH6程度で食胞形成能が促進されるという結果が得られている。しかし,塩や有機物は一定の濃度範囲内では,食胞形成能に大きな影響を与えないことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
テトラヒメナでは遊泳速度の速い系統が確立できたが,食胞形成能を向上させることができていない。これは,ゾウリムシほど遊泳速度が上昇していないことが原因と思われる。そのため,H28年度は,更に遊泳速度を上昇させた系統を確立する。 また,コルポーダ,ツリガネムシにおいては,培養上の問題もあり,遊泳速度の速い系統が作成できていない。これらについては,培養方法の改善を含めた遺伝子のノックアウト法の改良によって,問題を解決する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1. テトラヒメナは,更に遊泳速度を上昇させることで,食胞形成能の高い系統が確立できると考えられる。その解決法として,本研究課題の申請時に想定していた2種の遺伝子のHomology-dependent gene silencingまたは,Homologous recombinationによって遺伝子破壊を行い,食胞形成能の高い系統を確立する。 2. コルポーダにおいても,現在遊泳速度の速い系統を確立できていないため,2種の遺伝子のHomology-dependent gene silencingによって解決する予定である。 3. ツリガネムシにおいては,培養条件の検討,および,遺伝子クローニングの見直しを行い,遺伝子抑制,遺伝子破壊の技術を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子抑制系統の確立が遅れており,使い捨て滅菌プラスチック器具の購入量が予定より,減少したため。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の予定どおり計画を遂行するため,H28年度予算との合算で滅菌プラスチック器具を購入する。
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