排水の浄化能力を向上させるために,排水処理場の生物反応槽に生息する繊毛虫の繊毛運動を促進し,微小なゴミや細菌を貪欲に捕食する“大食漢”の系統を確立することを目的として本研究を行った。前年度の研究では,コルポーダやツリガネムシでは繊毛運動が促進した系統を確立することはできなかったが,テトラヒメナでは遊泳速度が正常細胞の1.2倍にまで上昇した系統を確立できた。しかし,貪食作用が強化されるほどの効果は得られていなかった。そこで今年度は,テトラヒメナに焦点を絞り,前年度のテトラヒメナの系統に,HSP40 familyの遺伝子をダブルノックアウトすることで,正常な細胞と比べて1.3倍以上の遊泳速度をもつ系統 (fast系統) を確立することができた。このfast系統は,正常な系統と比べて,食胞形成能が約1.5倍にまで増加しており,排水の平均的なpHである 6.0-6.4程度でも食胞形成能が高く,正常細胞と同様に安定して増殖した。また,マグネシウムやカルシウム塩,有機物が含まれる水溶液中でも,pHが6以下,或は8以上にならなければ,増殖にも食胞形成能にも大きな影響を与えないことがわかった。 fast系統と正常な細胞を有機物と細菌を多量に含む水溶液中で培養し,浄化能力(濁度,一般生菌数,pHの変化)を比較したところ,水溶液の初期濁度には関係なく,fast系統の方が濁度を低下させる能力が高いという結果が得られた。これは,fast系統の方が,水溶液中の移動能力が高く,有機物の貪食能力が高いことが理由と考えられる。しかし,テトラヒメナはホルマリンのような有機溶媒には極端に耐性が低いため,有機溶媒を含む水溶液中での利用には再検討が必要である。
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