ケラチン中に存在するシスチンが架橋点となっておりそのままでは成形性がない。 昨年度は炭素ラジカルがシスチンのジスルフィド結合をアタックすることにより可溶化を伴いながらグラフト共重合体を得る方法でケラチン複合体の生成を試みた。 今年度は、還元剤を積極的に添加してメルカプト基に変換したうえで、予めケラチンの側鎖に存在する官能基を修飾し、ラジカルリビング重合の開始剤に変換した後ビニル系単量体をグラフト重合し、ケラチン複合体の性質を明かにした。 臭化 2-ブロモイソブチリルを用い、ケラチン側鎖のアミノ基、水酸基、メルカプト基のすべてをアシル化し、導入した臭素原子と臭化銅(I)とを用いて原子移動ラジカル(ATRP)重合を行った。 また、ケラチンのメルカプト基のみを開始点とするため、二硫化炭素と2-ブロモプロパン酸エチルとを用いメルカプト基をジチオチオカルボナートに変換し、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合を行った。 いずれの重合でもメタクリル酸メチルをはじめとするアクリル系単量体がケラチンをマトリックスとしてグラフト共重合体が得られた。 得られたグラフト共重合体の熱的性質は、ATRPによるものとRAFTによるものとでは異なり、ATRPによるケラチン-アクリルグラフト共重合体のアクリル成分のガラス転移温度が大幅に上昇することを見出した。 これはケラチン側鎖にアクリル系高分子が密集してグラフトした結果アクリル系高分子の分子運動が抑制されたためであろうと推察している。
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