研究課題/領域番号 |
15K12245
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
木村 邦生 岡山大学, その他の研究科, 教授 (40274013)
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研究分担者 |
山崎 慎一 岡山大学, その他の研究科, 准教授 (40397873)
内田 哲也 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (90284083)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ポリ乳酸 / 重合結晶化 / 光学分割重合 / バイオプラスチック / 立体規則性 / ラクチド |
研究実績の概要 |
ポリL-乳酸(PLLA)は高価格であり、廉価に提供できる合成法が希求されている。光学純度の低いラクチドの開環重合過程においてPLLAが選択的に調製できれば、乳酸の光学分割工程を省略することができ、上記の問題の解決に繋がると考えられる。このような背景から、重合結晶化を利用したPLAの合成に於いて、重合場にせん断流動を印加することによるPLLAの光学的選択重合を検討した。 円筒形撹拌棒を備えた円筒形重合容器にトルエンとn-オクタンの混合溶媒、ならびにL-ラクチドとD-ラクチドを仕込比(L-ラクチド/D-ラクチド=95/5)で濃度0.02 mol/Lとなるように仕込み、撹拌をしながら窒素気流下で80oCまで昇温した。ラクチドが完全に溶解したら、重合開始剤であるトリフルオロメタンスルホン酸を加えた。その後、せん断速度0、147、ならびに489 s-1で撹拌を印加し20時間重合を行った。部分ラセミ体を静置下で重合を行うと、収率42%で高結晶性のポリ乳酸(PLA)の板状結晶が生成した。ベルヌーイ統計に従ってモノマー仕込み比から算出した立体構造の異なる乳酸単位からなるシンジオタクチック連鎖racemo2連子(r)は9.5%であるのに対して、得られたPLAではr=4.7%と低く、光学選択性が発現した。そこで次に、せん断速度147ならびに489 s-1でせん断を印加し、同様に重合を行った結果、せん断速度の増加に伴ってr値は減少し、せん断速度489 s-1ではr=3.2%となった。せん断印加による光学的選択性向上の詳細を検討するため、それぞれの重合における収率とr値の時間変化を調べた。その結果、せん断印加によって重合初期における収率の向上が見られた。せん断を印加すると、重合初期では撹拌による反応速度の増大により重合度の高いコオリゴマーが生成し析出する。重合中期以降ではオリゴマーの溶解性差の効果が顕著になり、コオリゴマーに比べホモオリゴマーが優先的に析出することでr値が減少したと推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、L-ラクチドとDL-ラクチドとの重合系を検討することにしていた。しかし、ラクチドの安定性の問題から、より光学分割が難しいと考えられる完全な鏡像関係にあるL-ラクチドとD-ラクチドの共重合系で研究を開始した。その結果、部分ラセミ体からの重合にせん断を印加することで、光学的な選択性が発現し、D-乳酸単位の少ないポリ乳酸を結晶として調製することができた。更には、せん断速度と光学的選択性との間に相関関係があることも見出すことができ、本研究の根幹をなすせん断印加による光学的選択重合の可能性を見出すことができた。また、得られた結晶の固体構造解析も実施し、せん断の印加によらず非常に結晶性の高い板状結晶が得られることも分かった。せん断印加系に於いても、オリゴマーやモノマーが重合と同時に結晶化していることが明らかとなり、次年度の計画に繋がる研究成果を獲得することができている。当初計画であるせん断印加条件を含めた重合条件と生成ポリマーの分子量との関係がまだ完全には把握できておらず、次年度での継続的な検討課題として残っている。 以上より、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
L-ラクチドとDL-ラクチドの開環共重合系において,継続検討課題である重合条件とポリマー分子量の関係を明らかにする。また,せん断速度,印加時間,ならびに印加開始時期によって,オリゴマーの溶解性や結晶化速度が影響を受けると予想される。よって、オリゴマーの溶解度と結晶化速度,ならびに固体構造のせん断依存性を明らかにした後に、せん断印加時間や印加開始のタイミングなどの条件を検討し、更なる光学選択性の向上を図る。得られた知見を基に、L-ラクチドとDL-ラクチドの共重合系におけるせん断印加と光学選択性の関係を明らかにする。 更には、開環重合系だけではなく、乳酸の重縮合に於いても重合結晶化を利用したPLAの光学選択的合成を検討し,せん断印加という外力を利用した新しい光学的選択重合を確立する。
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備考 |
該当なし
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