研究課題/領域番号 |
15K12247
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
松藤 寛 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (70287605)
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研究分担者 |
岩淵 範之 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (90328708)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 食品廃棄物 / 未利用たんぱく質 / 有機蛍光物質 / リグニン |
研究実績の概要 |
先行研究において、Pseudomonas sp. ITH-SA-1は低分子リグニンであるシリングアルデヒドSYALよりベンゼン環を有さない新規高分子蛍光物質NAPSFAを生産することを見出した。SYALが3-O-Methylgallate (3-MGA)に代謝され、これが培地中のN源であるトリプトン(カゼイン酵素分解物)と菌体外で反応して蛍光物質を生成することが判明し、3-MGAと混合するだけの非培養系でもNAPSFAを生産することが可能となった。昨年度において、3-MGAはカゼインや他のたんぱく質からは蛍光物質を生成せず、たんぱく分解物や塩基性アミノ酸からスペクトルの異なる蛍光物質を生成することを明らかにした。そこで、今年度はたんぱく質の分解条件の検討や蛍光物質の阻害因子ついて検討した。まず、カゼインを様々な酵素(パンクレアチン、ペプシン、キモトリプシン、トリプシン)で分解したのち、3-MGAと反応させたところ、いずれの酵素分解物も蛍光物質を生成した。さらに、種々のたんぱく質を酵素パンクレアチンで消化すると、蛍光強度の強弱はあるものの蛍光物質を生成した。HPLC分析から共通の成分は認められず、様々なペプチドと反応して、異なった蛍光物質を生成すると考えられたが、様々なたんぱく質を酵素分解し、3-MGAと混合することで蛍光物質を生産し得る可能性が示された。一方、蛍光物質生成の阻害因子について検討した。反応温度は常温~低温の方が安定的に生成され、また液性は弱アルカリ条件の方が生成しやすいことが判明した。さらに、糖類(単糖、二糖、多糖)は蛍光物質生成を阻害しなかったが、一部のアミノ酸及び酸化防止剤は蛍光物質生成を抑制した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の主たる目的は①蛍光基質ペプチドを含む各種たんぱく質分解物の調製と探索と②蛍光物質生成の最適化法の確立と反応阻害因子の明確化である。今年度の検討結果より、種々のたんぱく質(ミルクカゼイン、大豆たんぱく質、ピーナッツたんぱく質)から蛍光生成基質となるペプチドの調製法を確立でき、また蛍光物質生成反応を亢進並びに抑制する因子が明らかになってきた。これらの因子(蛍光生成反応の温度、液性、並びに試料中からの低分子反応阻害物質の除去)は容易に調節できることから、効率よく蛍光物質の生産が可能になると考えられる。以上のことから、最終目的である食品廃棄物を含めた未利用たんぱく質からの新規蛍光物質の変換が可能になると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後実際の食品からたんぱく質を精製し、これをパンクレアチンで消化させ、3-MGAと反応させることで蛍光物質を生産するかどうかについて検討する。実試料からのたんぱく質精製についてはいろいろな手法が教科書レベルで知られていることから、これらを試し、最適な精製条件を検討する。具体的には、実試料として牛乳やヨーグルトおよび大豆等を用い、たんぱく質精製については、加熱変性沈殿、等電点沈殿、硫安沈殿、塩析、エタノール沈殿を試みる。諸条件としては、続いて行うパンクレアチン酵素分解に影響を与えない方法を検討するとともに、効率的な蛍光物質生産条件となる手法を明示する。一方で、蛍光物質の基本構造を明らかにするため、モデルアミンとしてベンジルアミンを用い、これと3-MGAの反応物の化学構造を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
蛍光物質の基本構造の明確化において、分取HPLC用逆相カラムを購入する予定であったが、年度末に開催された日本農芸化学会(京都、発表演題数4)の宿泊費が予算超過し、逆相カラムの購入(約10万円)が困難となり、未使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
消耗品費の一部と未使用額を合わせ、分取HPLC用逆相カラムを購入し、モデルアミンであるベンジルアミンと3-MGAの反応生成物の精製、単離を行い、その化学構造を決定する予定である。
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備考 |
日本大学生物資源科学部食品生命学科食品分析学研究室ホームページ http://hp.brs.nihon-u.ac.jp/~foodanalysis/
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