研究実績の概要 |
多くの生成物が塩素処理工程にて生成される。アミノ酸由来の生成物のいくつかは臭気を有するとの報告があり、浄水異臭味への寄与が疑われているものの、これらの生成物の浄水異臭味への寄与については定量的に議論できていない。その大きな理由は、浄水中に含まれる多くの物質の標準品が入手できないため、それらの物質が臭気を有するか否かの判断を、標準品に対する臭気三点比較法などの官能試験で直接調べることができないことにある。これに対し、本研究では、食品分野などで用いられるgas chromatograhy (GC)-mass spectrometry (MS)-olfactometry(GC-MS-O)を適用することにより、標準品がない物質を含めた官能試験法を構築し、フェニルアラニンの塩素処理をケーススタディとして、個々の生成物の臭気全体への寄与を推定した。その結果、標準品が入手できない2つの生成物(N-クロロフェニルアセトアルドイミン, 2-クロロ-2-フェニルアセトアルデヒド)が臭気を有することが分かった。さらに、GC-MS-O分析と臭気三点比較法を組み合わせることにより、フェニルアラニン塩素処理溶液の有する臭気の60%が説明でき、その内訳が、遊離塩素が13%, 2-クロロ-2-フェニルアセトアルデヒドが13%, トリクロラミンが12%, フェニルアセトアルデヒドが11%, フェニルアセトニトリルが8%, N-クロロフェニルアセトアルドイミンが2%であることが示された。以上より、GC-MS-Oを用いることにより、原体が入手できない物質の官能試験を行うことができること、また、その結果と従来の官能試験の結果を組み合わせることにより、混合物中の個々の物質の臭気全体への寄与率を算定することができることが示された。
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