研究実績の概要 |
本研究では細菌の持つ生育制御システムであるトキシンアンチトキシンシステム(以下、TAシステム)を新たな生物学的封じ込め技術として活用でき得るかその可能性を検討した。モデルケースとして遺伝子組換え操作に汎用されるアグロバクテリアを材料とした。 平成27年度は、塩基配列データベースからTAシステムを検出・分類し、その中から3種を選抜、生育抑制を誘導するための条件を検討した。平成28年度は、更に6種類のTAシステムを追加し、計9種類のTAシステムについて、生育抑制効果およびその制御が可能かどうかを精査し、結果4種のTAシステム(IetS, Doc, ParE, RelEタイプ)を選抜した。本年度はまず、選抜したこれらのTAシステムを組み合わせ、lacプロモーター下流に導入した人工TAオペロンを6種類作製した。これらをアグロバクテリアの染色体DNAに組み込み、液体培養および植物形質転換操作時の生育抑制効果を評価した。一度TA遺伝子の発現を誘導した後、非誘導条件下に移し細胞死の程度を評価した。液体培地中ではTAシステムを組み込んだアグロバクテリアは6種全てで生育抑制効果が見られたもののその程度はTAシステムの種類と組み合わせ、並び順によって大きく異なった。次に、植物形質転換操作後の植物切片上の残存生菌数を測定したところ、TAシステム組み込み菌株では野生株に比べ大きく生菌数が低下し、共存培養直後の生菌数では10,000倍近い差があるものも見られた。また、共存培養後の選択培地に抗生物質を加えることで生菌数は極めて低いままで維持された。アグロバクテリアから酵母へのタンパク輸送操作においても同様の結果が見られた。適切なTAシステムの選択やオペロンの構築など、更に検討すべき課題はあるものの、本研究によって生物学的封じ込め技術におけるTAシステムの応用可能性が示唆された。
|