研究課題/領域番号 |
15K12255
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
牧 雅之 東北大学, 学術資源研究公開センター, 教授 (60263985)
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研究分担者 |
藤井 伸二 人間環境大学, 人間環境学部, 准教授 (40228945)
森長 真一 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (80568262)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 在来種保全 |
研究実績の概要 |
人間の移動・運搬技術の発達とともに、本来はその場所に生育・生息していなかった生物が意図的・非意図的に持ち込まれ、外来生物問題として世界中で懸念されている。この状況は我が国においても例外ではない。在来種と近縁な外来種が侵入すると、在来種間には確立されている生殖的隔離が外来種・在来種間には存在しない場合が多く、しばしば種間交雑を起こし、遺伝子プールの汚染を引き起こす。遺伝子の浸透は形態情報のみでは分からない場合が多く、保護対策を講じる前に取り返しがつかないほど進行してしまう場合が多い。しかしながら、在来種と外来種の種間交雑がいつ頃から起きているのか、外来種が侵入してから在来種と種間交雑を行うようになるまでどの程度の時間がかかっているのか、遺伝子プールの汚染はどれくらいの速度で進行するのかについては今もって不明である。 本研究の目的は、在来種の標本の一部からDNAを抽出して、遺伝子マーカーを用いることにより遺伝子汚染の存在を確かめることがある。それにより、外来種の侵入から在来種との種間交雑が起こるまでの期間や遺伝子汚染の速度・パターンを推定することができる。 平成27年度は,在来種として,タデ科のノダイオウを対象に解析を行った.ノダイオウと交雑をしている可能性のある外来侵入種ナガバギシギシ,エゾノギシギシとの遺伝的マーカーを用いた判別を行うために,核遺伝子マーカーとしてSSR遺伝子マーカーの開発を行った.また,葉緑体DNAの非コード領域における変異を用いて,容易に在来種と外来種の識別を行えるような手法の確立を目指した. これらのマーカーが有効に使用できるかどうかを明らかにするために,野外で集団サンプリングを行い,純粋集団でマーカーの信頼性を確認した.また,標本から抽出したDNAを用いて,遺伝子汚染が識別できるようなシステム構築を進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
対象とする材料は,いずれも高次倍数体であり,核遺伝子座における遺伝子型の決定が容易ではない.SSR遺伝子座マーカーは複数を開発することができたが,各個体の遺伝子型を決定することが単純ではない.一方,葉緑体DNAに関しては,在来種と外来侵入種の区別は容易である.さらに手法を簡略化するために,RFLPによる解析を可能とすることに取り組みつつある. ハーバリウムの標本からのDNA抽出については,想定されていたとおり,断片化が著しいものが含まれており,PCR増幅を行う領域を短いものにした方が良いと考えられた.生株から得られたDNAで増幅されるプライマーでも標本では増幅されないことが多く,どのようなプライマーを用いるべきかについては,試行錯誤にならざるを得ない状況である.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度においては,カントウタンポポとセイヨウタンポポの交雑現象についても研究対象として広げる予定である.カントウタンポポとセイヨウタンポポについては,遺伝的識別に関する先行研究が存在するので,本研究に利用できるものについては,取り入れる予定である.状況によっては,下記に述べるように,ギシギシ属植物でも行う,CAPSマーカーの開発を取り入れる予定である. ノダイオウとギシギシ属外来侵入種との交雑に関しては,核遺伝子マーカーをSSR遺伝子ではなく,CAPSマーカーを開発して利用することを考えている. 標本からのDNA抽出については,さらに手法に工夫を加える必要があるが,それ以上にマーカー遺伝子のPCR増幅が短い断片で済むようなシステムを構築する必要があると思われる.
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次年度使用額が生じた理由 |
種識別遺伝子マーカーの開発および標本から抽出したDNAへの応用が試行錯誤状態で,研究の進展が十分でなかったことによる. また,平成27年度は研究対象種群をギシギシ属植物を絞ったためである.
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は,ギシギシ属植物だけでなく,カントウタンポポも解析対象として加える. マーカー開発をSSR遺伝子に限らず,利用可能性のある複数のものを考慮に入れて実験を行うため,平成28年度の使用額は前年よりも増え,残額全額を使用すると見積もっている.
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