人間の移動・運搬技術の発達とともに、本来はその場所に生育・生息していなかった生物が意図的・非意図的に持ち込まれ、外来生物問題として世界中で懸念されている。この状況は我が国においても例外ではない。これらの外来生物は、いくつかの要因から在来種 に競争で勝つことが多く、生物多様性の維持における脅威となっている。一方,交雑がいつの時期からどのようなスピードで進行しているかについては,多くの場合ほとんど情報がない状況である. 一方,ハーバリウムには、過去の採取された植物標本が多数保管されている。それは外来種についても例外ではない。外来種の標本が採取され始めた時期を調べれば、その種がその地域に侵入し始めた年代を推定することができる。そこで,国内で外来種と在来種の交雑が進行している複数の種群について,植物標本から抽出したDNAを解析することによって過去から現在に至る交雑現象を明らかにすることを目的としている. 対象とする種群としてはタンポポ属とギシギシ属で,本年度はギシギシ属の在来種に関する解析を主として行った.交雑の現状を把握するために,宮城県および鳥取県の集団について,遺伝学的解析を行った.前者の集団では,外来種の侵入からそれほどの時間が経っていないにもかかわらず,交雑がかなりの頻度で起きていることが明らかとなった.また,標本から抽出したDNAを用いた研究を行う上での問題点を検討し,PCR増幅における標的領域の検討を行った.古い標本から抽出したDNAは予想通り断片化が進んでおり,分光光度計の測定では十分なDNA量があるにもかかわらず,PCRでの増幅は十分でないことが多かった.増幅断片長が短くなるように,しかも情報量を失わないようにプライマーを設計することが必要であり,それによって標本からのDNAでも情報が得られやすくなることが分かった.
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