研究課題/領域番号 |
15K12256
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
平尾 章 筑波大学, 生命環境系, 助教 (20447048)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 花蜜酵母 / Metschnikowia / 訪花昆虫 / 蜜胃内容物 / ハナバチ / 群集組成 / 新種記載 |
研究実績の概要 |
送粉共生系において,虫媒花と送粉昆虫のみならず,花蜜内にひそむ微生物の存在が注目されている.花蜜内に生息する酵母などの微生物は,単に花蜜の消費者として振る舞うだけでなく,微生物自身の分散のために,ホスト植物および送粉者へ協力的に働きかける可能性が指摘されており、複合送粉共生系の存在が示唆されている.H27年度に菅平高原の半自然草原に生育する虫媒花14種を対象に、花蜜内に含まれる酵母群集の組成および構造を解析したところ,花蜜酵母群集のネットワーク構造が,ホスト植物の訪花者タイプと対応していることが明らかになった.H28年度は,訪花者の蜜胃内容物の酵母群集に着目し,花蜜酵母の分散プロセスを検証しようと試みた. 重要な送粉者として知られているハナバチ類3種の蜜胃内容物およびニホンミツバチの巣内の貯蜜を採取し、DNAメタバーコーディングによって試料に含まれる酵母群集の組成を同定した.その結果、1.ハナバチの蜜胃内の酵母群集が草本植物の花蜜内の酵母群集と非常に類似し,2.群集内ではMetschnikowia属の複数種の酵母が優占することが明らかになった.ハナバチの蜜胃内容物および花粉団子の検鏡観察によって,Metschnikowia属の酵母の存在を直接的に検出した.社会性ハナバチは,効率的な訪花行動に加えて,巣内に蓄えた花蜜や花粉団子を餌資源としてコロニー内で共有する.花蜜酵母の分散において,ハナバチ類のコロニーは重要なハブの役割を担っていると考えられ,ワーカー間の水平伝搬のみならず次世代の女王バチへ垂直伝搬される可能性が示唆された.加えてハナバチの蜜胃内容物からMetschnikowia属の未記載種(M. cf. lachancei)を単離し,子嚢の形成を誘導することで生活環を明らかにした.分子系統データと合わせて,新種記載を準備中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
花蜜内の真菌群集組成とハナバチ類の蜜胃内容物に含まれる真菌群集組成を比較することで,花蜜酵母群集の主要な分散経路を特定することができた.加えて,菌類の系統分類学的な成果として,未記載種の酵母の生活環を明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
花蜜内で最も優占するMetschnikowia reukaufiiおよびM. cf. lachanceiを対象に,細胞単位で遺伝子型解析を実施することで,野外集団におけるクローン構造や遺伝的多様性レベルを明らかにし,送粉系を介した分散プロセスを検証する.すでに両種とも複数の株を単離しており,前者については既存のSSRマーカーが適用可能であることを確認している.後者に関しては低コストのゲノム解析技術を援用することで,効率的にSSRマーカーを開発することが可能である.さらにハナバチ類の採餌行動を專門とする研究者の協力を得て,ハナバチ類の花粉団子のサンプリングを行い,ハナバチ類の餌資源である花粉組成と花粉団子に含まれる花蜜酵母の組成を合わせることで,複合的な送粉系ネットワークの解明を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末の学会(第64回日本生態学会)参加のための旅費が若干不足し、運営交付金で代替したため、その差額の11,125円を次年度使用額とした。
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次年度使用額の使用計画 |
H29年度の試薬消耗品として使用する予定である。
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