送粉共生系に花蜜内微生物が介入しているという知見が報告されており,植物-送粉者-微生物の三者間に拡張された生物間相互作用が注目されている.花蜜内にはMetschnikowia属酵母などの独特な真菌類が生息しているが,これら花蜜微生物の分散には訪花者が貢献していると考えられている.本研究では,重要な送粉者として知られる社会性ハナバチの花粉荷および蜜胃内容物に含まれる真菌類を調査し,花蜜内に含まれる真菌群集と比較することで,花蜜微生物の分散プロセスを検討した. 野外で採取したニホンミツバチおよびマルハナバチ類の花粉荷に含まれる真菌類を単離培養したところ,Metschnikowia属の酵母(特にM. reukaufiiおよびM. cf. lachancei)が多産した.次いで,これら酵母2種が同所の花蜜および蜜胃内容物にも優占することをメタバーコーディング解析によって明らかにした.なお未記載種のM. cf. lachanceiについては,ドラフトゲノムを解読し,DNAバーコーディング領域のゲノム内変異を考慮した上で,種同定を実施した.社会性ハナバチは,効率的な訪花行動に加えて,巣内に蓄えた花蜜や花粉荷を餌資源としてコロニー内で共有する.さらに社会性ハナバチは,体表に付着した花粉を団子状に固めて花粉荷を作るが,その際に蜜胃に蓄えられた花蜜を吐き出して,つなぎとして用いることが知られている.したがって,花蜜酵母の分散プロセスにおいて,社会性ハナバチ類のコロニーが重要なハブの役割を担っていると考えられる.一方,ハナバチ類の花粉荷からはケカビ門の糸状菌も出現したが,特にMucor属のM. falcatusが複数試料より高頻度に検出された.本種は報告例の稀な種であり,社会性ハナバチと深く関わりを持つ可能性があるが,自然界でのハビタットを今後詳細に調査する必要がある.
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