研究課題/領域番号 |
15K12260
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
岩本 伸司 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (50252482)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 色素増感光電極 / 水素生成 / 半導体ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
色素増感光電極は高性能の光電変換素子として注目されているが,これを水の分解による水素製造に用いた研究は比較的少ない。これは電極剤の酸化チタンの伝導帯準位が水素生成準位に比べわずかに高いだけで十分ではないこと,また水存在下では増感色素が酸化チタン表面から脱離しやすいことの2つの問題があるためと考えられる。本研究では,高い伝導帯準位を持つ酸化物半導体を合成し,これに耐久性の高い有機増感色素を結合させた高電位・高耐水生の色素増感光電極を作製し,その可視光照射下での水素生成能について種々検討する。また本反応系をグリセリンを含む水溶液に適用し,さらに電極触媒を組み込むタンデム型セルとすることで廃液処理とエネルギー変換を同時に行う高効率の水素エネルギー製造システムを構築し,その有効性について検討する。 平成28年度は,種々の増感色素を吸着させたPt担持酸化チタンナノ粒子を,トリエタノールを含む水溶液に分散させ,可視光照射下での水素生成特性について調べた。その結果,アンカー部を2つもつインドリン系有機色素が水溶液中でも比較的安定であること,またドナー部にトリアリールアミンをもち,またジチオフェン部を導入した色素が水溶液中でさらに高い安定性を示すことが認められた。一方でこのような色素は色素の疎水性が強いため,色素吸着量が増えると触媒粒子が水溶液中に分散しにくくなり,光触媒活性が著しく低下するという問題が生じることもわかった。そこで種々検討した結果,少量のシリカで修飾したチタニアを用いた場合,光触媒活性が顕著に向上することを見出した。これはシリカ修飾により粒子表面が親水性になり,これにより粒子の水溶液への分散が起こりやすくなったためと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,トリアリールアミンをドナー部にもち,またジチオフェン部を導入した色素が水溶液中でも安定であり,光照射後も色素の脱離や分解がほとんど起こらないことが確認された。一方でこのような色素を通常のチタニアに吸着させた場合,色素の疎水性が高いために水溶液中では粒子同士が凝集し,低い光触媒活性しか示さないという問題が生じた。そこで種々の試料で検討した結果,ソルボサーマル法により合成したシリカ修飾チタニアを用いた場合,粒子の凝集が起こらず,高い光触媒活性が得られることを見出した。これはシリカの添加により粒子表面が親水性になったためと考えられ,このように触媒設計を行うことで,分散性が高く,かつ安定した水素生成能を示す反応系を構築できることを見出した。以上のことより研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては,さらに高活性を図るため,種々の色素およびアナタース型修飾チタニア試料を用いて可視光照射下での水素生成能を調べる計画である。一方,最近行った検討では、種々のヘテロ元素を導入したルチル型の酸化チタンのナノ結晶が得られることも見出している。ルチル型酸化チタンは,アナタース型酸化チタンに比べ,伝導帯準位が低いことが知られており,光触媒や光電極として興味がもたれている。今後は,種々のヘテロ元素修飾ルチル型酸化チタンを用いてPt担持色素吸着型の光触媒を種々調製し,その特性についても調べる予定である。
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