本研究は、除虫菊が産生する忌避成分の生産に関わる遺伝子群を同定することで、他の植物に忌避成分生産性を付与し植物による防虫技術を開発するための有用遺伝子リソースを得ることを目指す。昨年度実施した、除虫菊の葉と蕾組織のRNA-seq法によるトランスクリプトーム解析によって、それらの組織で発現する遺伝子を網羅的に同定することができたものの、植物サンプルが十分でなかったため、遺伝子発現変動や忌避成分の蓄積量に基づいて、関連遺伝子を網羅的に探索・同定することができなかった。そこで、広島県因島に生育する除虫菊個体を新たに採集し、時系列トランスクリプトーム解析に用いた。除虫菊忌避成分の生産は、葉の損傷等により誘導しうるため、葉に損傷ストレスを与えてから継時的に葉をサンプリングし、その葉で忌避成分の蓄積とともに発現が変動する遺伝子の探索を試みた。具体的には、葉に損傷ストレスを与えてから0分、5分、30分、60分後の葉のトランスクリプトームをIllumina社の次世代シーケンサーによって解読し、網羅的な遺伝子発現情報を得た。同様の解析について3回の反復実験を行った。得られたトランスクリプトームデータからDe novo アセンブリにより遺伝子単位を推定し、それらの発現パターンを調査した。得られたトランスクリプトームデータは、除虫菊の損傷ストレス応答遺伝子や忌避成分生産性関わる発現遺伝子を探索し、他の植物との代謝システムを比較するうえでの有用なリソースとなると考えられる。
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