研究課題/領域番号 |
15K12286
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
門内 輝行 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90114686)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 創造力 / 21世紀型スキル / 集団による学び / 学びの場 / デザインプロセス / デザイン方法 / 記号過程 / 記号論 |
研究実績の概要 |
20世紀から21世紀にかけて、工業社会から知識社会へと大きく変容し、その中を生きる人間には、ダイナミックに変化する複雑な問題を他者と協働して解決するための「21世紀型スキル」を身に付けることが強く求められている。このため、多様な局面で「学び」や「学びの場」への関心が高まっている。 本研究の目的は、こうした知識社会で求められている「集団による学び」を可能にする「学びの場」のデザインを多主体で協働して実践するとともに、そのデザインプロセスを「記号過程」として分析することにより、デザイン主体の「創造力を育むデザイン方法論」を探究することである。 この研究目的を達成するために、①認知科学、記号論、教育学、社会学などの諸理論に遡って、集団による学びと学びの場のあり方について考察する、②集団の学びの場における利用者の行動を観察し、学びの場における空間と活動と共同体の関係を解読する、③多主体のコラボレーションによる学びの場のデザインを実践する、④そのデザインプロセスを記号過程として記述し分析する、⑤デザインプロセスをデザイン主体の学習と成長のプロセスとみなし、その経験を通してデザイン主体の創造力を高めるデザイン方法を構築することを計画している。 本年度は、この研究計画を推進するために、京都市立洛央小学校の6年生全員が参加して「〈いえ〉と〈まち〉のデザイン」を主題とする全4回のワークショップを行った。すなわち、1)各自が夢の〈いえ〉をデザインする、2)10軒程度の〈いえ〉からなる小さな〈まち〉をデザインする、3)〈いえ〉と〈まち〉の関係をデザインする、4)〈いえ〉以外の施設をデザインし、より大きな〈まち〉をデザインする試みを展開した。これは、建築と都市、個と集団の関係を学ぶ絶好の機会となった(デザインプロセスの詳細な分析と創造力育むデザイン方法論の構築は、次年度の課題とする)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、知識社会で求められている「21世紀型スキル」を身に付けるためには、「集団による学び」が不可欠であり、その学びを可能にする「学びの場」のデザインを多主体のコラボレーションによってデザインし、そのデザインプロセスを記号過程として記述し分析することにより、デザイン主体の「創造力」を育む「デザイン方法」を構築することを目指している。 今年度実施した「〈いえ〉と〈まち〉」を主題とするワークショップは、「いえ」と「まち」の関係性のデザインを小学6年生に集団で取り組ませた試みであるが、これは大変興味深いプロセスであり、子どもたちの創造力の育成につながる意義深い取組であった。 実際、本研究におけるデザインワークショップの実践は、朝日新聞にも取り上げられ(2015年1月31日朝刊)、子どもの頃から対話によるデザインを実践することの意義が高く評価されたが、このことは本研究が社会的にインパクトを与えたことを示す証左と言える。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度に行った「〈いえ〉と〈まち〉」を主題とするワークショップは、大変密度の高い集団による学びの実践であったと言えるが、特筆すべきは、単にデザインを実践するだけでなく、それぞれのワークショップにおいて、子どもたちに「振り返り」を記述してもらっていることである。そこでは、「一つだけ工夫するのではなく、視点を変えて工夫することを生かしたい」「みんなで協力したり、自分の作ったものの特徴などを伝えたりすることができるようになった。」といった注目に値する発言が数多く得られている。そこで、今後の研究の推進方策として、4回のワークショップにおけるデザインプロセスの詳細な分析を行うことを通して、デザインプロセスをデザイン主体の学習と成長のプロセスとみなし、デザイン主体の創造力を高めるデザイン方法やデザイン方法論を構築することに力を注ぐつもりである。 また、それと並行して、2013年度に6年生の児童全員と協働してデザインした京都市立洛央小学校ブックワールドにおいて、子どもたちがどのように学びの場(学習環境)を利用しているかという活動・行動を記録したビデオ映像をストックしているが、そのデータを解析することにより、集団の学びの場における「空間」と「活動」と「共同体」の関係を解読することにも取り組む。これは、デザインワークショップのように組織された活動だけでなく、休憩時間などにおける子どもたちの自由な行動を観察するところから、集団による学びの場のデザインについて、多くの示唆が得られるのではないかという考えに基づく研究の推進方策である。
|
備考 |
本研究のフィールドとしている学習環境をデザインした「京都市立洛央小学校ブックワールドデザインプロジェクト」は、2015年8月に第9回キッズデザイン賞・優秀賞(経済産業大臣賞)を受賞した(受賞者:京都大学大学院工学研究科建築学専攻門内研究室、京都市立洛央小学校)。
|