今年度は,見えない概念を可視化することの効果を実験的に調べた. まず,多数の概念をVR空間のなかに投影することを試みた.そして,3つの概念の中心の概念を求めるという課題について,その空間(仮想的概念空間とよぶ)のなかをウォークスルーしながら行うことの効果を確認するための認知実験を行った.概念の空間は,概念辞書(WordNet )に記載されている概念のうち5000個をネットワーク化して作成した. WordNetでは,それぞれの概念が,上位ないし下位関係の階層を用いて構造化されている.本研究では,概念辞書をFruchterman Reingolを用いてネットワーク化し,さらに,Pajekを用いて可視化した. 認知実験は,3つの概念の中心の概念を求めるという課題について,仮想的概念空間内で行う場合と,そうでなく一般的な空間で行う場合の比較実験を行った.3つの概念の中心の概念とは,3つの概念から連想される概念のことである.たとえば,「植物」と「水」と「太陽」の中心となる概念としては,「光合成」「原始の地球」などが考えられる.このように,いくつかの概念の中心概念を求める課題を設定したのは,複数の概念を合成して新たな概念を生成するというデザイン手法にもつながり,基本的な創造的思考の1つであると考えたからである.実験は,大学生3人を被験者として行った. 実験の結果からは,被験者が,自身の身体感覚と違和感なく仮想的概念空間内を探索したこと,及び,仮想的概念空間内をウォークスルーする前と後でまったく異なる中心概念が連想されたというデータが得られた.これらの結果から,可視化された概念空間の中に入り込んで概念を視覚的にたどることで,創造的思考を支援できる可能性が示唆された.
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