研究課題/領域番号 |
15K12294
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
服部 等作 広島市立大学, 芸術学部, 名誉教授 (50218509)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 玉座 / 座法 / 王権 / 椅子 / 象徴性 / Throne / 起居 / 胡床 |
研究実績の概要 |
研究実績の概容: 玉座の象徴性は、玉座の物質観で象徴される無形-有形の視座で考察した。前者の象徴性は、人ないし神と例えられる特別な(天皇や王、法王)階級に属する人物が不在状態と後者が座法(姿勢)を伴って在席する二つを想定する。両者が共に本質的な象徴性は、古代殷代の象形文字(甲骨)の姿勢と関連する姿勢の関連文字-立、坐・座,臥,倚,跪、姿勢と家具-牀・案、床几,且など約2割/全735字中の語形と語義から着目した。 そのため、1) 玉座における座法-象徴性の検討:東アジアと西方オリエント世界での座法の比較した。基本の座法は、象形の〝坐(席地而座)-倚座(垂足而座)〟に二分したうえで、前者が〝平敷きの坐〟と呼ばれる天皇(帝)の姿勢で、他にイスラム、仏教徒の姿勢の平座の座法である。一方で後者は、ギリシャ・ローマ世界を代表に西洋キリスト教の法皇がとる玉座上の威儀をただした座法で象徴的な内容で事例からも明示できた。実際の座法は、玉座の凭掛と肘当、足台(足座)に身体を安定して寄せ、威儀を正す道具が必要となり、結果的に身を寄せる語義と象形の語形に合致する〝倚座〟を得る。その座法は、腰掛ける、椅子ずわりと異なる。 象形の活用の効果は、漢字の機能(六書)と構造的原則が漢字に継承され、現代においても語形と語義に通じ、象形の誕生当初から権力者(神権・王権)の族専用記号であり卜占や儀式で利用され階級性を象徴していた。さらに王や天の語形に姿勢の象徴的語義が付加されて玉座、神器が王権の思想を反映する内容となった。以上の座法と特別な階級や一族の意識と今日の漢字知識との共通性が比較により、象形が座法-起居、宮廷家具、祭祀・儀礼、食・酒・祭器の抽象的-象徴的内容が比較でき、さらに今日では理解と対比できない玉座と神との供犠、呪術・儀礼の秘儀的内容と古代意識(象形以前の口承や神話的内容)の内容解明に成果をえた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.平成27年度の研究の進捗状況:研究の進捗状況は、順調である。 玉座の象徴性は、「場」と「起居-儀礼」の二面から文献および現地調査をすすめた。 「場」の事例研究は、基層の文化について知見を得るため、1)皇室・即位礼について平成の大嘗祭について、その起源を古墳時代の「記・紀」(古事記、日本書紀)神話にまでさかのぼる内容を調査した。2)王室・戴冠式は、現在、欧州を中心に多数の記録資料をえた。また3)無人の象徴性の代表例は、ダライラマ十四世(現在インドに亡命中)のアムド地方での転生活仏に至る記録を調べた。今後の転生の再現儀礼があるか政治的に不明となるがチベット民族における転生、無人の象徴性への期待の高さが確認できた。 最後に4)主人公の移動用の玉座は、調査項目の整理中にある。古代の例では、新アッシリア帝国の玉座、中世では、海洋王国と植民地の玉座(ポルトガル、スペイン、オランダ、英国、船内の玉座など)旧アフリカ大陸の植民地支配以前と植民地以後の玉座に際する例を概括的調査した。上記の玉座の移動性と象徴性の関係は、16世紀に世界的な海洋王国となったポルトガルの玉座の有り様を、ポルトガルのリスボン、コインブラなど現地調査により、当時の司教座のもつ象徴性を「場」と「起居-儀礼」の象徴性を有する点について調査項目が膨大であるが、そのうち起居(立ち、その他、前述転生活仏のような転生思想のなかの玉座交代例、玉座の主人公の移動時の例、欧州の戴冠式の記録居ふるまい)の伝統と実態把握が文献および一部の現地調査で一定成果を得た。 以上の予備的検討は、今後の玉座の象徴性が「場」で発揮される「起居-儀礼」となる即位礼と高御座=玉座の象徴性が御椅子、三種の神器といった付属品が玉座の象徴性に与える影響、効果の役割の確認、および「即位礼」と「場」における権力継承の儀式の歴史的な変遷を確認する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
1. 今後の研究計画と推進の方策: 本「玉座とその象徴性」を主題にする萌芽的基礎研究は、まず従来の物質文明観にたつ「玉座が椅子を豪華にしたもの」という物質価値観の偏重に対する誤解を排除し、現在「場」と「起居-儀礼」という二つの視座から玉座の普遍性を解明する独自的、萌芽的研究にある。 今後の解明をさらにすすめるため研究上の視座である「場」と「起居-儀礼」の二面は、以下の研究項目をさらに検討をすすめる。まず「起居(立や坐姿勢、作法)」が密接にかかわる、「場」となる「儀礼」から玉座にふさわしい主人公の姿勢検討をすすめている。 古代より日本の玉座が「天子の御座所」と揶揄されるごとく天皇の平敷きの平座(床座)と西洋の倚座姿勢、二つの起居の内容から、さらに起居の象徴性の検討をすすめる。すなわち「玉座が椅子を豪華にしたもの」という物質価値観からの誤解に対して「天子の御座所」という空間性に由来する価値観をより明らかにするため、起居の基層的な内容を語形と語義にとどめる象形文字の対象範囲をひろげる必要がある。そのため世界初の都市文明と王権が発達したメソポタミア文明から美術資料(壁画、彫刻、印章) の座像表現をたどり、歴代の汎世界帝国を支配した王(神)権のもとで玉座の座像と前述の象形文字の語形と語義の内容を照合し玉座の象徴性を明示できる古代世界から現代にいたる「起居-儀礼」のさらなる資料と実例をとりあげ基層文化をなす内容の考察をすすめる。このなかで、ひとつの課題は、移動式の玉座の象徴性がある。すでに海洋王国-ポルトガルの玉座の例として司教座の平成29年度調査では、騎馬民族の玉座:玉座の形態から象徴性の検討により騎馬民族の玉座像と象形文字の語形と語義との内容を照合し、移動式の玉座の歴史的な象徴性の検討をすすめ、平座、倚座、さらに移動式玉座の起居の文化的内容から「場」と「起居-儀礼」の解明を要する。
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次年度使用額が生じた理由 |
玉座の概念モデルの構想のため、玉座モデル(アッシリア-ウラルトウ時代の壁画計測にもとづく)玉座の試作費用のなかで製作材料、製作の手配で遅れが生じ、製作費用の差が生じた
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次年度使用額の使用計画 |
2017年に玉座の試作モデルの製作をすすめる。
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