研究課題/領域番号 |
15K12297
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研究機関 | 関西外国語大学 |
研究代表者 |
村下 訓 関西外国語大学, 英語キャリア学部, 准教授 (20411712)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 創発事象 / デザイン思考 / イノベーション / 導入デザイン |
研究実績の概要 |
平成27年度は、組織的なデザインワークの探究に向けた基礎研究として、(1)創発概念の理論的検討とその記述論理の定式化、(2)ドイツ系社会システム理論に基づく「デザイニング・システム」の理論的な定式化に取り組むことを課題とし、必要とされる文献レビューと記述論理の検討、および論文構成の組み立てを中心に行った。 その過程で、米国の有力デザインハウスが提唱した事業コンセプトの「デザイン思考」が、本研究の課題意識に極めて近い実務的な知見を含むことを再確認し、改めてこの「デザイン思考」の検討を組み込んでモデル化する必要性を認めるに至った。それにより、これまで手薄だったイノベーション論やマーケティング論におけるデザイン研究へと架橋する議論の手がかりが得られることも確認した。 平成27年度の研究成果として明確にした主要な記述の論点は次のとおりである。(1)製品・サービス等の人工物それ自体のデザインと、そのデザインにおいて市場価値を実現するための導入プロセスのデザインの両方に目配りすること。(2)組織的なデザインワークの方法論は、人工物それ自体のデザインを職域横断的に行う方法と、そのデザインにおいて市場価値を実現するための導入プロセスのデザインを組織横断的に行う方法、およびデザインされた導入プロセスを実行的なものとするマネジメントの方法を包括的に扱うこと。(3)理論的な観点として、デザインワークの創発的な局面を明確にすること、およびデザインワークをコミュニケーション・システムとして描き出すための記述論理を明確にすること。(4)本研究の基盤的な理論構成において、デザインを属人的・職能的な概念に回収せず、イノベーションを駆動する組織的な価値創造システムの振る舞いとして描き出すこと。以上を踏まえて、論文作成等の課題へと引き継ぐ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初、正面から議論に組み込むことを予定していなかった実務的な知見の「デザイン思考」について、本研究のテーマに照らして理論的な検討を行う必要が確認されたため、本研究全般の射程が拡張的に変更された。 「デザイン思考」は、組織的な戦略課題となるイノベーションを実行的に推進するための方法論でもあり、またビジネスモデル再構築のプロセスを具体化するための方法論でもある。この重層的なデザインの方法論を、組織的なデザインワークのフレームワークとして事業組織にビルトインすることの有用性を確認するとともに、その理論的な可能性を検討することも、本研究に組み込まれるへき課題であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、次の3点の具体的な研究成果(論文・報告)を計画に挙げている。(1)「創発事象としてのデザインのリアリティ」、(2)デザイン評価はいかにして可能となるか、(3)デザイン組織はいかにして可能となるか。その方向性において大きな変更はないが、平成27年度の進捗状況において確認したとおり、「デザイン思考」の概念の導入により本研究全般の射程が拡張的に変更されたため、以下のとおり推進方策を拡充して展開することとする。 (1)については、「デザイン思考」の実践的な方法論およびプロセスに埋め込まれている創発事象を浮き彫りにしつつ、経験的にしか記述できていない理由(なぜそうするのか)を原理的・論理的に検討し、デザイン理論を洗練させるための記述を試みる。 (2)については、「デザイン思考」の方法論の1つである「導入デザイン」のプロセスに注目し、段階的な組織的意思決定の正当性がいかにして構成されていくかを、コミュニケーション・システムの動態において記述する方策を試みる。組織的意思決定では、製品・サービス等人工物のデザイン評価だけでなく、戦略的なイノベーションやビジネスモデルの再構築にかかるデザイン評価も重視し、デザイン学・デザイン論の射程をマーケティング・マネジメント論へと架橋するための理論的な方向性も提示する。 (3)については、「デザイン思考」を自律的・自己組織的に駆動する事業組織(デザイン組織)の実現可能性について検討する。この「デザイン組織」においては、デザインを属人的・職能的な概念に回収せず、イノベーションを駆動する組織的な価値創造システムの振る舞いとして描き出すことが課題となる。 以上、総じて平成28年度は、具体的な研究成果(論文・報告)の実現に向けた記述開発を中心として取り組むことになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在までの進捗状況で述べたとおり、本研究全般の射程を拡張的に変更する必要があり研究に遅れが生じたことにより、平成27年度に「次年度使用額」が生じた。具体的には、研究報告にかかる出張の先送りが結果した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、研究成果の検討および事前レビューを意図した研究会出張、および研究成果の報告を目的とする学会出張に向けて助成金使用を予定している。また、「デザイン思考」の実情を把握するための現地調査・インタビュー調査が可能であれば、助成金(旅費)の一部を充当することができるようお願いしたい。
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