本研究では、植物の多様な香気成分の中から、冷涼感作用を有するTRPチャネルを活性化する成分を検出し、その清涼感のある香り成分が、人の感覚(体感温度、香りの印象)および生理的な応答(指先の血流量および脈拍)に及ぼす影響を検討した。 平成27年度は、細胞試験によって、柑橘ダイダイの果皮油(精油)の香り濃縮試料に、冷涼感に関わるヒト受容体(TRPA1)への作用活性化を見出した。 平成28年度は、TRPM8(涼刺激)活性化を阻害せずにTRPA1(冷刺激)を活性化するといった冷涼化剤に適した特性を持つ冷涼化成分に着目し、匂い嗅ぎGC/MSによるヒトの嗅覚アッセイによりその候補成分としてCarvonを見出し、ダイダイ精油の熟成(酸化)による本成分の生成を確認した。また、冷涼化成分の作用検証におけるヒト試験に向けて、基材への香りの添加調製法、作用部位、設定温度範囲についての知見を蓄積した。 これらに基づき、所内の倫理審査委員会での承認を受け、20代前半の女子学生18名を対象として、ダイダイ精油と既知の冷涼化成分(l-メントール)を添加したゲル状試料を用いたヒト試験を実施した。実験系の検証および基礎データの収集により、冷涼感に係るヒト試験系の構築ができた。 平成29年度は、ダイダイ精油中で見出した冷涼感成分のLimoneneおよびCarvonを主成分とするキャラウェイ精油とl-メントールを用いたヒト試験を実施した。 以上のヒト試験による検証の結果、ダイダイ精油またはキャラウェイ精油を既存の冷涼化剤l-メントールと共に化粧用ジェルに添加したところ、l-メントール単独と比較して、腕の皮膚への塗布時において、冷覚への影響は認められなかった。しかしながら、ダイダイ精油については、香りの吸入時に、指向性の向上(主観評価)及びリラックスの傾向(生理応答)が認められた。
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