研究課題
大腸菌をスライドグラス上に捕捉するため、高マンース型糖鎖をもつウシリボヌクレアーゼBをスライドグラスに固定した。しかし、この糖タンパク質(市販で高価)を高濃度で固定しないと大腸菌を効率よく捕捉できず、新たに安価なリガンド探しが必要となった。そのためまず大腸菌のマンノース結合特異性を解析した。Manα1→2Manα1→R, Manα1→3Manα1→R, Manα1→4Manα1→R, Manα1→6Manα1→Rを結合したビーズを調製し、それに蛍光標識をした大腸菌の結合を解析すると、大腸菌はManα1→2Manα1→Rに強く結合するが、Manα1→3Manα1→RやManα1→6Manα1→Rにも有意に結合することが判明した(業績1 )。そこで後者に結合する安価な材料として酵母マンナンを考え、パン酵母をすり潰してスライドグラスに塗布し、これに蛍光標識をした大腸菌が結合するかどうかを解析した。その結果、酵母ペーストが蛍光が染まり、大腸菌が結合することを見出した。次にスライドグラス全体を二酸化チタンでコートし、蛍光標識をした大腸菌を捕捉したスライドグラスの上に2枚の二酸化チタンコートスライドグラスを1 mm離して静置し、これにブラックライトを照射し、二酸化チタンから生じるOHラジカルが1 mmの間隙に捕捉されている大腸菌を殺傷し、ここから蛍光強度が減少するかどうかを蛍光顕微鏡で観察した。試料とブラックライトの距離を10 cmに保つと1 mW/cm2の光強度が得られ、4時間照射すると1 mmの溝から蛍光が減少、消失する傾向が見られた。しかしながら、対照でも若干蛍光強度の減少が見られ、この原因としてUVそのもので大腸菌が一部死滅する可能性と、4時間の照射で試料が乾燥するための2 つの可能性が考えられた。次年度はこれらの原因を排除できる条件を確立し、光触媒作用による捕捉した大腸菌を殺菌する系を確立する。
3: やや遅れている
光触媒の研究領域でも二酸化チタンでコートした表面からUV照射によりOHラジカルを発生・飛ばして殺菌作用/効果を見る研究例はなく、その多様な条件を検討するのに時間を要した。現在1 mW/cm2の光強度で4時間試料を照射すると蛍光標識した大腸菌の一部が崩壊することを見出している。しかしながら、4時間のUV照射で試料の一部が乾燥する場合もあり、乾燥による大腸菌の死滅も関与しているので、実験環境を工夫する必要がある。この問題点を解決できれば、本来の目標を達成できるので、次年度はまず実験系の乾燥を防ぐことから始める。
昨年度の研究から、実験システム上で試料が乾燥するという点が問題となり、これを克服するため、実験システムをサランラップで覆い乾燥を防ぐことを考えている。サランラップはガラス板に較べて高いUV透過率をもっているので、一つの解決策である。また大腸菌を捕捉するシステムを1 cm2の高さ1-2 mmの枠で囲み、枠内を水溶液で保つことを平行して行い、サランラップを用いない方法でも検討する。以上のアプローチで昨年度の問題点を解決し、UV照射により二酸化チタンから発生するOHラジカルを周辺に飛ばし、周辺(二酸化チタンでコートしたスライドグラスの縁から1 mm以内)にいる大腸菌を殺傷できるかどうかを蛍光の分散、消失で解析を行い、本システムの有用性を検討する。
本年度は実験条件を検討することが多く、基本的な試薬と材料の購入が中心となり使用額が生じた。
本年は比較的高価な蛍光試薬、大腸菌を捕捉し囲うゲル (ジメチルポリシロキサン等) 、光触媒酸化チタン水溶液などを購入する経費に使用する。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件)
Biosci. Biotechnol. Biochem.
巻: 80 ページ: 128-134
10.1080/09168451.2015.1075863