研究実績の概要 |
気相中で行われるインクジェット染色は,環境低負荷型染色として近年適用されつつあるが, 前処理や熱固着処理を必要とするなど改善点は未だ多い. そこで, 染色の大気中での処理が可能な大気圧プラズマジェット処理とインクジェット染色を組み合わせることで(Wジェット), 持続可能な繊維染色加工技術を構築するための基本的情報を得ることを目的として研究を行った。 インクジェット染色の前処理として, 綿布、絹布および羊毛布を用いて 大気圧プラズマジェット処理を行った。処理は現有設備を用いて予備実験で検討した最適条件で行った。処理により羊毛繊維のスケール剥離, 絹繊維のフィブリル化が観察されたが, いずれも布内部の繊維については殆ど損傷がないことが示された. 布の白度変化は殆どなく, 力学特性も大きな変化はなかった. 以上の結果から, 大気圧プラズマジェット処理による布の劣化は殆どないことが確認された. X線光電子分光分析で処理による繊維表面の酸化が起こっていることが確認され, 親水性が付与されたことが確認された。この変化は羊毛布が最も大きく、インクジェット染色は羊毛布で試みることとした。 大気圧プラズマ処理前後の羊毛布のインクジェット染色は購入設備(テキスタイルインクジェットプリンタ)を用いて行った。ミリング型酸性染料C.I. Acid Green 27を用いて染色を行い, 染色布のクベルカムンク関数を測定して, 染色性を評価した。大気圧プラズマ処理羊毛布は未処理布に比べてK/Sが大きく, 濃く染まっていることがわかった。また, 通常の薬剤処理布と比較しても濃色化が確認された。とくに, 湿熱固着処理が短時間のとき差異が大きく, エネルギー消費の観点からもインクジェット染色の前処理としての大気圧プラズマの有効性が期待された。
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今後の研究の推進方策 |
ミリング, ハーフミリングおよびレベリングの各種酸性染料を用いて染色を行い, ミリング染料で得られた大気圧プラズマジェット前処理の濃色効果を調べる。染料の構造による効果の違いを検討する方法で、プラズマ前処理による濃色化機構を検討する。 インクジェット染色の性能として不可欠な滲みを評価する.現有の顕微鏡とCCDカメラを用いて染色布のRaw画像を作製する. 撮影はD65光源下で行なう. 染色布のRaw画像は, 画素ごとにカラー画像を構成するRGB値を読み取り, 3次元カラーヒストグラムを作製する. 染色布のカラーヒストグラムは, インクジェット染色で比較的均一に染まっている箇所と未染色箇所に二極化する. 滲みや色泣きがある箇所は, 均一に染まっている箇所とは色が異なるため, 二極化以外のところに表れる. この画素をピックアップし, 画像を再構築することで滲みや色泣き部分が検出される. この画像の画素をカウントすることで, 滲みや色泣きの定量的評価を行い, 最適な表面処理条件および染色条件を検討する. また、染色布の摩擦・耐光・洗濯・汗等の各種染色堅ろう度試験を行ない, 実使用に耐えうる染色加工になっているかを検討する. 以上について、大気圧プラズマジェット処理を通常の尿素前処理を比較しながら検討する。
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