研究実績の概要 |
繊維製品の付加価値機能として色彩付与は重要である. 本研究では染色加工技術の一つであるインクジェット染色を取りあげ, 気相での処理が可能な大気圧プラズマジェット表面改質を組み合わせることで, 持続可能な染色加工技術を構築するための基本的情報を得ることを目的としている. 各種布の大気圧プラズマジェット処理を行ったところ, ポリエステル布と羊毛布で顕著なぬれ性の増大が起こり, 繊維表面の酸化による親水化に起因することがわかった. プラズマ前処理の効果を羊毛布と各種酸性染料を用いて検討した. 尿素を含む薬剤処理と比較すると, 染色性の指標となるK/S値はプラズマ処理で大きく, 羊毛繊維表面の親水化で染料との親和性が高まって染料の浸透が促進されたと考えられた. また, この効果はミリング染料>ハーフミリング染料>レベリング染料となり, 分子量が大きく染料内部に拡散しにくいミリング染料で浸透効果が大きいためと考えられた. 会合しやすいミリング染料やハーフミリング染料では, 染料インクに尿素を添加することにより, さらにK/S値が上昇した. 染料の脱会合による溶解性の増大, 並びにプラズマ前処理による親水化の相乗効果により, 染料の浸透が促進されたと考えられる. 染色布の画像を用いてブリーディング・染めむらの評価を行ったところ, プラズマ前処理は薬剤前処理と同程度であった. 発色剤や湿潤剤としての尿素のみならず, 糊剤の削減もプラズマ前処理で可能になることが示唆された. また, プラズマ前処理では蒸熱処理時間を大幅に削減しても十分な染色性が得られた. 染色布の洗濯堅ろう度や摩擦堅ろう度は, プラズマ前処理でも薬剤前処理と同等に高い値を示した. 以上, 環境負荷やエネルギーの低減, および生産効率向上の観点から, インクジェット染色工程への大気圧プラズマジェットの導入が期待される.
|