研究課題/領域番号 |
15K12325
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
乾 千珠子 (山本千珠子) 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任助教(常勤) (00419459)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 味覚嫌悪学習 / 味覚嗜好性 / 免疫機能 / 脳機能 / イメージング / マンガン造影MRI法 |
研究実績の概要 |
食べ物のおいしさが免疫力に影響を及ぼすことを科学的に実証することを目指す。おいしさの重要な要因である味覚嗜好性には脳が深く関与している。一方で、脳は免疫機能の制御を行っている。そこで、脳内で味覚情報が処理されることで免疫系が活動すると想定する。動物に味溶液(例えば、甘味溶液)を摂取させた後で免疫反応を引き起こすリポポリサッカリドを投与すると、脳内での味覚情報処理と免疫反応が結びつき、動物はその味を嫌うようになる(味覚嫌悪学習)。このことから、味の情報は免疫系の活動と結びつきやすいと考えられるが、そのメカニズムは不明である。本研究では、この現象のメカニズムを行動、脳活動、免疫機能の観点から調べ、味覚嗜好性と免疫系の関係を明らかにすることを目的とした。 当該年度では、味覚嫌悪学習獲得後に味溶液が再び呈示され、不味いと感じた時に活動する脳部位を、マンガン造影MRI法を用いて同定することを計画した。実験の結果、リポポリサッカリドによる味覚嫌悪学習獲得後の想起過程において、扁桃体および視床下部背内側核を含む部位の働きが認められた。リポポリサッカリドの対照として用いた生理食塩水または塩化リチウムでは視床下部領域に強い活動はみられなかったことから、リポポリサッカリドによる味覚嫌悪学習獲得において特異的に働く部位であることが明らかとなった。さらに、リポポリサッカリド投与の前に免疫抑制剤で処置しておくと、学習の獲得が阻害されたことから、リポポリサッカリドによる免疫反応が味覚嫌悪学習の獲得に重要であることが示唆された。以上の研究成果は、食べ物のおいしさ・まずさが免疫反応と強く結びついていることを示す食行動における基礎的知見であると考えられ、「よく噛み、味わい、楽しく食べる」という健康の基盤を維持し、向上させるという臨床的発展も望まれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度前半では、リポポリサッカリドを用いた味覚嫌悪学習の実験パラダイムを確立するため、学習獲得に適切なリポポリサッカリドの濃度の検索に時間が割かれた。脳神経活動を同定するために用いたマンガン造影MRI法は先行研究で既に実験手続きが確立されていたため、実験パラダイムの確立後は計画的に実験を遂行することができた。それにより、計画の後半で、リポポリサッカリドを用いた味覚嫌悪学習の想起過程において特異的に働く脳部位を同定するという成果が得られた。さらに、免疫抑制剤を用いてリポポリサッカリドによる味覚嫌悪学習の獲得のメカニズムについて調べたことで、味覚情報と免疫機能に強い関連性があることがわかった。以上のことから、今後の研究進展に大きく寄与する成果であったものと評価できると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度で、リポポリサッカリドによる味覚嫌悪学習の獲得後の想起過程に関連する脳部位が扁桃体また視床下部領域であることがわかった。また、免疫抑制剤により味覚嫌悪学習の獲得が阻害されることが明らかとなった。これらの結果から、リポポリサッカリドの投与により体内の免疫細胞が活性化され、その情報が扁桃体や視床下部領域へ伝達されることで味覚情報と結びつき、学習の獲得がなされたものと考えられる。本年度では、それらの脳部位の機能について検討する。具体的には、扁桃体または視床下部領域を薬物で一時的に抑制させ、味覚嫌悪学習獲得後の味溶液の再呈示による摂取行動に及ぼす影響について調べる。さらに、学習獲得後の免疫機能を調べるため、味覚嫌悪学習獲得後の味溶液の再呈示時における免疫細胞の動態について、鉄粒子造影剤による免疫イメージング技術を用いて可視化を試みる。
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