研究実績の概要 |
動物に味溶液(条件刺激)を摂取させた後で免疫反応を引き起こすリポポリサッカリド(無条件刺激:lipopolysaccharides, LPS)を投与すると、脳内での味覚情報処理と免疫反応が結びつき、動物はその味を嫌うようになる(conditioned taste aversion, CTA; 味覚嫌悪学習)。本研究では、この現象のメカニズムを行動、脳活動、免疫機能の観点から調べ、味覚嗜好性と免疫系の関係を明らかにすることを目的とし、LPSによるCTA獲得後に甘味溶液が再び呈示され、不味いと感じた時に活動する脳部位を、マンガン造影MRI法を用いて同定することを計画した。無条件刺激として、LPSと効果の異なる薬物に塩化リチウム(LiCl)を用いて、薬物の効果による行動及び脳活動の比較を行った。実験の結果、行動変化においては、LPSまたはLiClを投与し条件づけを行った群のマウスは甘味刺激によって嫌悪性行動を表出した。その際の脳活動として、扁桃体または視床下部背内側核を含む部位の活動が認められた。扁桃体の活動はLPS及びLiClを無条件刺激とした場合に認められたが、視床下部背内側核での活動はLPSを条件刺激とした場合にのみ認められた。サッカリン溶液の代わりに蒸留水を呈示した場合には、嫌悪性行動はみられず、またこれらの部位での活動も観察されなかった。これらの結果から、扁桃体は条件刺激による嫌悪性行動の表出に関わる部位であると考えられた。また、LPSを無条件刺激とした場合でのみ観察された視床下部背内側核は、体温制御に関連することで知られており、LPSによるCTA獲得後の味覚刺激によって体温が変化するという報告(Bull et. al., 1991)もある。これらのことから、味覚情報と免疫機能との情報伝達部位として視床下部背内側核が重要な役割を担っていることが明らかとなった。
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