嚥下時の食塊特性を知ることは、ヒトの摂食嚥下機能の解析、特に嚥下障害者の摂食を考える上で重要であるが、食塊特性の測定を行うには高額の機器が必要となるために、簡便な測定方法の開発が必要かつ急務である。そこで、“傾斜板による測定法”を開発した。この測定法は、傾斜板が1度/秒の速度で上昇し、その上に載せた食塊の動き出す角度と到達ラインに達する角度から食塊特性を測定する測定方法である。 初年度(平成27年度)では、嚥下時の食塊が滑り出す角度(SA)と25mm先の到達ラインに達した角度(AA)を調べることにより、嚥下食塊特性を比較的正確に測定出来ることが示された。次年度(平成28年度)では嚥下障害者の摂食で広く用いられているトロミ剤の食塊特性に及ぼす効果について傾斜計を用いて調べた。その結果、トロミ剤を加えることにより嚥下可能な食塊特性が早期に形成される事実を角度測定から客観的に示すことが出来た。最終年度(平成29年度)では駆動系の無い一定の角度を保った傾斜板を用いた測定法(到達ラインに到るまでの時間測定)との比較を濃度の異なるトロミ剤を用いて行った。その結果、傾斜板による測定では試料の濃度が増す(粘性が増す)と到達ラインに達する時間が指数関数的に増大する(粘性が高くなると到達時間が指数関数的に増大する)のに対し傾斜計では直線的な関係が得られることから、傾斜計を用いると、低い粘性を持つ食塊から高い粘性を持つ食塊まで比較的短時間内に測定可能であることが示された。 以上の得られた結果から、今回開発した傾斜計による食塊特性測定法は、比較的簡便かつ正確に嚥下食塊特性を調べることが可能であることが示された。
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