実験動物を用いた肥満予防研究では、糖、脂肪及びエネルギー代謝の変動を各種臓器のmRNAや酵素活性を測定して考察することが幅広く行われている。しかし、これらの値は直接的に代謝変動と連動している訳ではなく、実際の代謝変動を見誤っている場合が多い。そこで本研究ではより正確な代謝情報を得ることを目的とし、生体ガス質量分析装置によるエネルギー代謝変動測定と安定及び放射性同位体でラベルしたパルミチン酸(PAL)とグルコース(GLU)を経口投与後の代謝解析により、糖、脂肪及びエネルギー代謝変動を統合的に解析する方法の開発を目指す。ラード及び魚油添加ラードを食事脂肪として、マウスに与え、13C及び14CPAL、及び、13C及び14CGLU投与試験を行なった。肝臓トリアシルグリセロール(TAG)濃度は、魚油添加ラード群でラード群よりも低下した。魚油添加群で肝臓脂肪酸生合成系酵素の活性は低下し、β酸化系酵素の活性は増加した。13CPAL経口投与では、魚油添加群はラード群よりも素早く燃焼が起こることが示されたが、総燃焼量に差はなかった。14CPAL経口投与での各種臓器への取り込みは、2群間でほとんど違いはなかった。13CGLUの経口投与では、魚油添加ラード群で13CGLU燃焼がわずかに高かったが、総燃焼量に差はなかった。14CGLUの各種臓器の脂肪酸画分及び水溶性画分への取り込みにはほとんど差はなかった。これらの結果は、魚油摂取に伴い、肝臓TAG濃度及び脂肪酸生合成系酵素活性は低下し、β酸化系酵素活性は上昇したにもかかわらず、実際のパルミチン酸の総燃焼量やグルコースの脂肪酸への取り込みにはほとんど差がないことを示した。以上より、魚油摂取による肝臓TAG濃度の減少は、脂肪酸生合成や酸化以外の要因が関係することが示された。
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