研究課題
味蕾には甘・旨・苦・酸・塩味を受容する味細胞は別々に存在する。我々は甘・旨・苦味受容味細胞が消失し、その分酸味受容細胞が増加したSkn-1a KO(KO)マウスを作出した。本研究では、KOおよびWTマウスの味蕾特異的に発現する遺伝子の解析・比較を行い、塩味受容味細胞に発現する塩味受容候補遺伝子を発見することを目的とした。具体的には、Skn-1 KOマウスにおいてはtype II細胞が消失し、type III細胞が増加しているので、遺伝子発現プロファイルにおいてもその特徴が反映されていることを利用し、塩味受容に関わる分子の探索を実施した。塩味受容細胞(Type I)はKOとWTでは変化がないことから、以下の遺伝子発現解析によりスクリーニングした。野生型マウスの有郭乳頭上皮(WT-CvP)、野生型マウスの乳頭外の舌上皮(WT-Np)、Skn-1 KOマウスの有郭乳頭上皮(KO-CvP)の3種のサンプルについて、DNAマイクロアレイおよびRNA-seq(次世代シークエンス)解析を行い、WT-Npに対してWT-CvPとKO-CvPにおいて有意に発現量がupする遺伝子で、かつWT-CvPとKO-CvPの間に発現量の有意差がなく、fold changeが0.7より大きく1.5より小さい遺伝子を数十個抽出した。これらの遺伝子の発現をWT-CvpとKO-Cvpを用いてin situ ハイブリダイゼーションを行った。WTおよびKOマウスの味蕾細胞で発現量が同じ遺伝子群の中から、塩味受容細胞(Type I細胞)に発現し、膜貫通ドメイン(少なくとも1つ以上)を持つ分子数個を絞り込んだ。
2: おおむね順調に進展している
本研究においては、我々が作製した甘・旨・苦味受容細胞が完全消失のSkn-1a-/- (KO)マウスを用いて解析した点が研究進捗の大きなアドバンテージである。すなわち、KOマウスとWTマウスの有郭乳頭味蕾をRNA-seq(次世代シークエンス)法で比較解析し、候補遺伝子群を抽出した。またこれらの遺伝子群の中で①膜貫通ドメインを持つトポロジーがあること、②in situハイブリダイゼーションにより一部の味細胞に発現していること、KOとWTマウスでの発現状態がほぼ同じであることなどから、塩味受容に関する候補分子を絞り込むことに成功した。この分子はげっ歯類のみならずヒトおよびサルなどにも発現していることがデータベース情報から明らかである。しかし、本分子が塩味受容機能分子かどうかについては報告がない。これまで、甘・旨・苦・酸味受容分子はいずれもそのmRNAの発現がin situハイブリダイゼーションにより観察されている。得られた候補分子においても、そのmRNAが発現しており、しかもチャネル分子の構造を持つことから、味蕾のType I 細胞に発現する塩味受容チャネルの候補分子の可能性が高いと考える。
今後は以下の研究を行う計画である。1.塩味受容体候補分子の電気生理学的手法による機能解析1)卵母細胞を用いた機能解析:卵母細胞に候補遺伝子を導入し、NaCl濃度依存的なIVカーブを測定する。また、Na以外の陽イオンに対する応答と比較する。具体的には、卵母細胞内には、リボソームやtRNAが豊富に含まれるため、効率よく候補遺伝子がコードする膜タンパク質を発現させることが可能である。候補遺伝子が発現した卵母細胞に二電極を挿入し、細胞内外へのNa+ ,Cl-の流入を電流値として正確に測定する。またNa+ ,Cl-以外の陽イオン(K+,Mg2+,Li+,Ba2+,Ca2+)や陰イオン(F-,Br-,I-,AcO-)に対する応答と比較しスクリーニングを行う。2)培養細胞(HEK293)を用いた機能解析:HEK293細胞に候補遺伝子を導入し、培養液のNaCl濃度依存的なIVカーブを電気生理学的手法により計測する。選抜後の候補遺伝子を培養細胞の膜上に発現させ、膜タンパク質の機能を単一分子レベルでリアルタイムにかつ定量的に測定し、詳細な機能の解析を行う。スクリーニングに成功した遺伝子を用いて、このチャネルの開口確率をチャネル活性化の指標とし、アゴニスト獲得を目的としたリガンド探索を行う。2.塩味受容候補分子のKnock outマウスの作製TALEN法あるいはCRISPR/CAS9 によりKOマウスを作製する。
上述の通り、平成27年度において塩味受容チャネル候補分子を見い出すことに成功した。そのため、本年度は、この分子が実際に塩味受容機能を有するかの解析が必要であり、電気生理実験および塩味嗜好性試験(神経応答・二瓶選択)などを予定している。
細胞および培養細胞を用いた電気生理実験とKOマウス作製、それを用いた嗜好性試験の使用額を計上する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 11件、 オープンアクセス 10件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 4件、 招待講演 7件)
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