研究課題/領域番号 |
15K12341
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
安尾 しのぶ 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30574719)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 体内時計 / アミノ酸 / 時計遺伝子 / 高脂肪食 |
研究実績の概要 |
近年、24時間営業や昼夜交替制勤務が増え、約24時間の周期を刻む概日時計(体内時計)の乱れが深刻化している。概日時計の乱れはがんを始めとする様々な疾病リスクを高めるため、早急な対策が必要である。本研究では、我々がこれまでに体内時計調整アミノ酸として見出してきたアミノ酸を用いて、明暗周期を乱した慢性的時差ぼけマウスにおける体内時計の撹乱改善効果を解析した。 慢性的時差ぼけ処理(CJL, 概日時計の撹乱処理)は、明暗周期を2日ごとに8時間ずつ前進させる明暗条件を10-20日間継続して行った。処理を行う1週間前から、飲水を蒸留水あるいはトリプトファン、ロイシン、セリンのいずれかに変更し、CJLの間は飲水投与を継続した。オープンフィールド試験において、CJLによる不安様行動の増加がトリプトファンの投与により抑制された。強制水泳試験においては、CJLによる躁様行動の増加がロイシンの投与により抑制された。肝臓における時計遺伝子Per2や細胞周期関連遺伝子Wee1の発現はCJLにより抑制され、トリプトファンやロイシンの投与によりその抑制が強くなった。以上より、慢性的に単一のアミノ酸を摂取することで、CJLによる情動悪化は改善できるが、肝臓の時計遺伝子発現には負の影響が生じることが示唆された。 次に、近年における食の欧米化を考慮して、高脂肪食とCJL処理の相互作用を解析した。高脂肪食、CJL処理ともに体重増加を促進したが、二つの処理間に交互作用は見られなかった。また、通常食と高脂肪食を給餌したマウスにおいて、CJL処理が肝臓の時計遺伝子や細胞周期関連遺伝子の発現に及ぼす影響が異なっていた。この原因として、高脂肪食自体が概日時計を乱す要因となり、CJLの撹乱効果を修飾したと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた実験は全て終了し、順調に結果が出ている。各アミノ酸がCJL処理時の情動行動や肝臓の時計遺伝子および細胞周期関連遺伝子の発現に及ぼす影響が解明され、それぞれの特異的な機能性が明らかとなった。さらに、高脂肪食とCJL処理との相互作用の解析も済み、次年度において運動負荷とアミノ酸栄養の影響を検討するための条件検討が終了している。今年度の結果に基づき、次年度の解析がスムーズに進むと期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の研究において、CJLの概日時計撹乱効果は高脂肪食により修飾され、CJL単独の影響とは異なっていた。このため、概日時計の撹乱を解析するには、通常食を給餌することが望ましいと考えられる。平成28年度は、運動による体内時計撹乱改善を取り入れ、栄養と運動による総合的な体内時計の撹乱改善に取り組む。今年度の解析において、CJL処理の効果が実験ごとに不安定となる傾向が見られたため、平成28年度には概日時計の撹乱を誘導する処理として、CJL処理とともに、日照時間を短くした短日条件処理を行う。短日条件では概日時計の振幅が小さくなり、うつ様行動や脂肪過多、またインスリン抵抗性などの症状が生じることが解明されている。 運動負荷の方法として、トレッドミル走行(1日1時間、10m/分、5日/週)を行う。各アミノ酸の飲水投与とトレッドミル運動負荷を2~3週間行い、肝臓における時計遺伝子や細胞周期関連遺伝子の発現を解析する。また、短日条件に同調したマウスにも同様にトレッドミル運動負荷を行い、うつ様行動や脂肪量、骨格筋におけるグルコーストランスポーターの発現等を解析する。 平成28年度はさらに、アミノ酸による概日時計調節効果のメカニズムを解明するため、光による概日時計の位相反応を強めるセリンに着目した解析を進める。これにより、作用機序に基づいたアミノ酸栄養の機能性を明らかにし、体内時計の撹乱を改善する栄養・運動療法の提案を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた必要消耗品の入荷の遅延により、49,940円の残金が生じた。これは次年度に消耗品として使用予定である。次年度のその他の使用内訳に変更はない。
|
次年度使用額の使用計画 |
物品費649,940円の内訳として、実験動物300,000円、発現解析試薬240,000円、チューブ等のプラスチック器具109,940円を予定している。旅費200,000円の内訳として、国内学会2回分(時間生物学会、畜産学会: 100千円x 2回)を予定している。英文校閲費として50千円(25千円 x 2回)を、また論文別刷費として50千円(50千円 x 1回)を使用する予定である。
|