研究課題
アフラトキシンB1(AFB1)は、主にAspergillus flavus (A. flavus)により産生されるマイコトキシンの一種で、変異原性、発がん性を持つことが知られている。防カビ剤や熱処理、オゾンガス、放射線照射などの多様な手法がA. flavusの生育阻害やAFB1の不活性化のために用いられつつあるが、現在まで食品にダメージを与えず付着したこれらのAFB1を効率よく解毒可能な方法は知られていない。そこで本研究では、ヒトの薬物代謝酵素を利用することで、常温・常圧下でAFB1を解毒する新たな手法の開発を試みた。本研究で用いたヒトシトクロムP450(CYP)の一種であるCYP3A4は、生体内において、AFB1を高い発がん性を持つアフラトキシンB1-8,9-エポキシド(AFBO)へと変換する主酵素である。一方、AFBOの半減期は約5秒間程度と短く、再度毒性化されないことも確認されている。そこで本研究では、ヒトCYP3A4を発現した大腸菌を用いて生体外でAFB1を一過的に高毒性のAFBOへと変換させる事で、AFB1による食中毒を防止できるのでは無いかと考えた。さらに、本大腸菌を微生物反応触媒として用いる目的で、凍結乾燥によるCYP3A4発現大腸菌菌体の保存安定性を検討した。CYP3A4発現大腸菌菌体によりAFB1標品を代謝させた結果から、アフラトキシンQ1(AFQ1)が生成することが判明した。一方、本代謝物に対してUmuテストを行った結果、AFQ1は変異原性を失っていることが明らかとなった。また、実汚染食品サンプルとしてA. flavus 感染食品を作製し、本システムによるAFB1解毒能を評価した。さらに、凍結乾燥CYP3A4発現大腸菌の保存安定性に関しては、14日間の常温保存後もCYP3A4によるAFB1代謝能は失われないことが分かった。
1: 当初の計画以上に進展している
以下の理由により当初計画以上に進展していると判断した。1)CYP3A4発現大腸菌菌体によりAFB1標品を代謝させた後、HPLCにより分析した結果、AFB1代謝物と見られるHPLCピークが観察された。LC-MS分析の結果から、このHPLCピークは、アフラトキシンQ1(AFQ1)であることが判明したため。2)代謝物に対してUmuテストを行った結果、AFQ1は変異原性を失っていることが明らかとなっていたため。3)AFB1産生A. flavus 懸濁培養液を用いた解析からも、同様にAFB1が代謝されていることが確認できたため。
1)食品中のアフラトキシンを検出する際に、蛍光を用いたAFB1の検出は頻繁に使用されている。法定濃度である10ppb付近が検出限界である従来のHPLC-UV検出を超える検出感度で、蛍光によるAFB1の検出が高感度に行うことができれば、汚染食品の解毒を確認できると考えられる。よって次年度以降は蛍光HPLCによる分析法を検討する。2)先の研究から、蛍光分光光度計を用いてAFB1の蛍光値を測定した結果では5ppb程度までのアフラトキシンを検出できるものと考えられる。また、A. flavus懸濁液およびA. flavus感染トウモロコシのからAFB1を抽出する際にはイムノアフィニティカラムのAFLAKINGを用いる予定である。
アフラトキシンB1(AFB1)の代謝・分解を評価する過程で、Umu試験による変異原性評価を予定していた。今回、生化学工業から販売されているUmu試験用キットの利用を検討していたが、オリジナルの手法を開発したために当該キットを利用する必要が無くなった。また、当初予定していた高速液体クロマトグラフィー装置については、学内の代替機種が利用可能となり、予算的に当初計画を下回る結果となった
次年度以降の検討課題である高感度液体クロマトグラフィー解析用に、カラムを購入する必要がある。次年度は主にこれら高額カラムの購入費用に繰越金を利用する必要があると考えられる。
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Biopharm. Drug Dispos
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http://www.research.kobe-u.ac.jp/rceg-nowstone/index.html