食品成分は、組み合わせによる相互作用の可能性を秘め、その代謝に関わる酵素の遺伝的背景の個人差から、特定の集団において影響が大きく現れることが危惧されるが、複雑な生体の代謝系を再現する評価方法は確立されていない。しかし、日常的に摂取される食品成分を評価対象とし、評価対象と代謝系を共有し動態に関わる遺伝的背景の解析研究が進んでいる医薬品を代謝モデルとし、食品成分とモデル医薬品の血中動態から遺伝的背景を考慮した解析を行うことで、食品成分を負荷せずに安全に相互作用の評価が出来る可能性がある。そこで、大豆イソフラボン(IF)を評価するために、IFと同様にUDP-グルクロン酸転移酵素 (UGT)による代謝を受けるバルプロ酸(VPA)を服用する患者を対象に検討を行った。なお、主要IFであるダイゼインの腸内代謝物であるエクオールが、核内受容体であるPXRを強力に活性化することでUGT等の代謝酵素を誘導することや、その腸内生成量に大きな個人差があることが報告されていることから、健常人を対象にその尿中濃度を測定したところ(定量限界0.5ng/mL)、定量が可能だった被験者は23.9%にとどまり、その濃度に2800倍以上の差が認められた。この結果はエクオールが相互作用の個人差の要因となる可能性を示しているが、本研究期間中にその産生を確認できた患者がいなかったことから評価はできなかった。 しかし、UGT1A6の遺伝子に変異があるとVPAの血漿中濃度が有意に低いことが明らかとなったため、野生型の患者を対象にIFの影響を検討したところ、抱合体を含む総IFとVPAの濃度間に、更にVPAの活性代謝物である2-en-VPAと遊離IFとの濃度間に有意な正の相関が認められ、大豆がVPAの体内動態に影響を及ぼす可能性を初めて提示することが出来た。今後、症例数を増やしエクオールの影響についても明らかにする予定である。
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