本研究は、日本の一般家庭で行われている様々な調理動作を、動作の力学的特性および筋活動などの生理学的特性の両面から詳細に記録・分析するというバイオメカニクス的手法で研究し、その中で熟練者と未熟練者の比較から調理動作の「コツ」について検討することを目的とするものである。 平成29年度においては、引き続き対象動作を「包丁を用いたりんご1個丸ごとの皮むき」として、熟練者と未熟練者を比較する調理技術の評価指標に基づいて分類した被験者間での動作の違いについて、とくに動作を生み出す左右上肢の筋活動の違いから検討した。 その結果、熟練者の動作は非利き手でりんごをゆっくり回転させながら包丁を持つ利き手を少しずつ3-4回動かし、次にりんごを持ちかえるために非利き手を反対側に大きく動かす、という繰り返しのパターン動作をリズミカルに行っていることがわかった。すなわち、利き手と非利き手の協調的な連動が確認された。一方で、非熟練者の動作は不安定で、利き手・非利き手ともに不規則な動作が目立ち、動作のリズムも一定ではなかった。さらに、結果に基づいたりんごのむき方の教習を行うと、皮をむいたりんごの完成度と皮むきの動作速度に改善が認められた。 これらの知見は調理動作の「コツ」を検討する上できわめて重要なものであった。またこれを調理動作学習に用いることが、日本の一般家庭で行われている調理動作技能の円滑な伝達の一助となるものと考えられた。
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