平成27年度には、英国義務教育最終段階における科学コース「21世紀科学」における生徒観(学習者観)の分析と理科教師の役割の解明を行った。このコースは、「科学的リテラシー」の育成を掲げ、生徒達を科学の消費者と捉えていた。つまり、科学に対して批判的な目を持ちつつそれを生活の中で活用できる市民を育成しようとし、理科教師の役割は、その支援者であり、ファシリテーターであった。 平成28年度には、高校理科教師の理科教育目的観の調査研究を実施した。その際、理科教師の自己認識との関連に留意した。理科教師が自らを「科学者かそれに近い存在」と認識している否かである。理科教育目的観を、理系「職業人」の育成、「日常生活人」の育成、「民主的社会人」の育成、及び「文化人」の育成、という4側面から捉えた。その結果次の諸点が明らかとなった。①高校理科教師は自らを科学者とか科学者に近接する存在とは捉えていない。②彼らは、生徒たちの将来の職業への寄与よりも将来の日常生活への寄与を意識している。③科学が自然に対する新しい見方を提供すること尊重するが、科学による生命観、地球観、人間観の変革といった大きなスケールの事柄には関心が低い。④科学技術の在り方が将来を大きく左右する時代においても、科学技術政策に関心を向けさせることは理科教育の大事な任務とは考えていない。⑤科学論的知識が必要だとする教師のほうが民主的社会人育成を重視している。⑥なお「文化人」を除いて、科学者に近い存在と自認している教師のほうが、全体として各目的観それぞれを強く自覚している傾向にあった。⑦また女性のほうが全体として、とりわけ日常生活面への寄与を重視していた。 このように我国の高校理科教師は、科学者に近いと自認している者であれ、かなり多面的な目的観を保持している。かかる目的観が、理科の内容等の評価にもつながるかどうかは更なる検討を必要とする。
|