研究実績の概要 |
本研究では,問題解決能力に関して優れた学習者(学習者A)及び,同能力に関して優れていない学習者(学習者B)に着目し,学習者Aの優れた問題解決の考え方・手順を学習者Bに移転することを試みた.問題解決の考え方・手順を知識と捉えた場合,福島(2010)が説くように,その知識の背景にある暗黙的な諸概念が知識移転の鍵となる.問題解決において,学習者がブレインストーミング法やKJ法等の質的方法,並びに思考の適切な言語化を成功させるためには熟練を必要とする.また,研究者が,学習者の思考を発言や態度から言語化する際も,誘導的にならないようなシナリオ設定が課題となる.本研究ではまず,学習者Aの解に至るまでの紆余曲折を含む思考過程を口述筆記等により可視化し,次に学習者Bの思考過程を可視化した.この2つの結果を比較し,学習者Bの問題解決を支援する要素の抽出を行った.学習者Aが問題解決において困難を覚えた時点で筆者から与えたヒントは,問題解決過程において出現する単語の意味の明確化(単語の定義)である.一方,学習者B群の個々の学習者について,筆者から一般的な問題解決方法を教授しただけでは,提示された問題の分析やテーマの掘り下げがほとんどできない状態だった.加えて,学習者B群の複数人によって問題解決を狙ったグループ・ディスカッションにおいて,その中で比較的建設的な発言を行う学習者がいる一方,発言がほとんど見られない学習者もいた.この結果を踏まえて開発した教授方法は, テーマを単語に分解して,各単語に対する5W1Hの明確化させるものである.問題となるテーマ3種類程度を順次提示して問題解決を行わせた結果,各単語に対する5W1Hの明確化は不十分であったが,場合分けは観察されるようになる等思考過程に改善が認められた.本成果は,第23回大学教育研究フォーラムにおいて発表した.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年3月に開催された第23回大学教育研究フォーラムにて成果を発表する以前から,当該発表の結果を踏まえ,より良い成果を得ることを狙っていた.従って,追加実験,成果発信(論文投稿,学会発表等)を行う上で必要な予算を平成29年度活動のために残した.
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