研究課題/領域番号 |
15K12388
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
細田 宏樹 愛媛大学, 教育学部, 准教授 (90229196)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 物理教育 / 概念調査 / 考査問題 / 答案分析 / 学習指導 / 誤概念 / 四則計算 |
研究実績の概要 |
研究2年目は研究の正確度を高めるため,大学生との対話を重視した実践的研究を中心に行った。そして,力学計算問題を用いた個別学習指導による大学生のもつ誤概念の状況把握とその解決のための教材開発,及び力学概念調査のために試作した問題や題材について課題探究型授業における教材としての有効性に関する実践的研究,並びに前年度の研究成果を力学の授業で試す検証的研究を行った。 日本物理教育学会誌「物理教育」では「科学する心の芽を育てるための物理教育実践の流儀」と題して,小学校や中学校における物理分野の教育における問題点について,物理学の学問的視点から指摘し,本研究課題に関する意義や考え方を解説した。 日本物理教育学会年会では「主題探究型科目における科学クイズの活用とクォーター制への対応の試み」と題して,共通教育の主題探究型科目において文科系学部の学生を対象とし,本研究課題の成果として得られた誤概念を調査する問題や題材を扱う授業実践を試みた研究結果について報告した。その中では「個々の学生のもつ誤概念,特に考え方の是非を扱う授業は,学生に不快感を与え,学習意欲を削ぐという点で課題がある」という現状も説明した。 日本物理学会秋季大会では「力学の単純な解答に見られる大学生の思考」と題して,大学初年次生を対象とした力学の授業における本研究課題の成果の検証について報告した。その中で,試験では正答を得ても,試験の事後レポート作成時における学生間の相談により,誤概念が復活することを述べた。 情報収集のための調査として,計算問題を用いた概念調査法を開発するためのヒントを得るため,そして週4コマ15週行った個別学習指導から得られた大学生のもつ誤概念の型が全国的に見られる普遍的なものであるか否かの確認のため,東京で開催された「物理入試問題についての懇談会」と「大学の物理教育研究会の会合」に,それぞれ参加した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の採択を受け,正規の講義においても大学生のもつ誤概念を注視しながら授業を行ってきた。その中で,大学生のもつ思考や勉学に対する志向が本研究課題で当初想定していた以上に変化しており,授業の内容や水準が大学生の特性に合わなくなってきた。そして,大学生のもつ誤概念や物理学という学問に対する思い込みなどの誤解や勘違いも,年々変化していくのではないかという考えに至った。そこで,大学生のもつ誤概念の現状把握とその解決法を探るため,次の方法をとり,いくつかの知見や成果を得た。 まず,本研究課題の意義や研究の方向性を明確にするために,これまでの課題意識や成果について「物理教育」誌に報告した。次に,物理教育学会年会で研究発表した共通教育の授業実践では,大学生は自分のもつ思い込みの知識を逆手にとってクイズの誤答を作ることには前向きに楽しさを感じるが,自分のもつ誤概念の考え方を正されることには抵抗感や不快感をもつことが分かった。さらに,物理学会で研究発表した大学初年次生対象の力学の授業実践では,授業を通して試験時には正答を得ていた力学概念が,相談可という条件で試験の事後のレポートを課すと,学生同士の相談の結果として誤概念が復活することが分かった。そして,2年次生以上を対象とする週4コマ15週にわたる個別学習指導の結果,現在の大学生のもつ思考や勉学に対する志向は年々変化しており,誤概念の傾向や勉学に対する取り組み方など,物理学会や物理教育学会で報告されている事例と共通点が多く,普遍的なものであることが分かった。 このように大学生のもつ思考や勉学に対する取り組み方は,想定外に変化したり個性に依存したりしている。しかし,個別学習指導を行うことで,個々の大学生の実情を把握でき,概念の獲得や法則の理解のために有効性が確認された指導方法も得られ,研究方向の決定に必要な新しい知見も得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
個別学習指導の実践を通して,力学概念の獲得や法則の理解には,学生同士の相談という試験勉強やレポート作成時に行われることが想定される勉強方法ではなく,学問的な理解を促す「真実は何か?」を追求するための討論を主軸としたグループ活動と,そのグループ活動を支援する専門的知識を持った助言者が必要である。次年度も,学生のもつ誤概念や勉学に対する志向を対話によって把握することに時間を割き,研究を深めていきたい。 個別学習指導の実践では,個々の学生のもつ誤概念の型を把握でき,その誤概念を解決する方法論を見出すことができる。たとえば,「国語的方法」と「総当たり表」など活用し,本研究課題の意義の一つである学生の学力向上を図っていくことが,力学概念調査法研究の最終目的である大学生の力学概念獲得を促進するための授業法開発につながると考えている。 その際に,実験の活用と学習者の個性と志向の把握が重要である。物理現象を考える際に,学生個人がどのような誤概念をもっていても自由であるが,それが誤概念(=誤答)という価値観で教育を行うと,学生に不快感を与え,学生のもつ勉学意欲を削ぐことになる。重要なことは「自分のもつ思考法で目の前で起こっている現象をきちんと矛盾なく説明できるか?」であり,それを価値観の定規として用いる必要がある。 以上のことに留意しながら,個別学習指導の実践を続けながら,実験も取り入れ,本研究課題を遂行していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の当初,授業時間外学習としてグループ討論を行う際に,討論で挙がった仮説を検証するための簡単な実験を計画していた。しかし,本研究課題の採択時から感じていた正規の授業における違和感,すなわち大学生のもつ思考や勉学への取り組み方が年々変化していることを,個別学習指導の実践により確信し,本研究課題の当初に計画していた実験や教材などの教育的有効性に疑問をもつようになった。そのため,今年度は,個別学習指導の実践における対話を重視し,大学生の現状把握と有効な授業法の試行を中心に行った。そして,状況把握が曖昧な状態での実験器具の購入は不適切と判断し,その購入を次年度に先送りした。
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次年度使用額の使用計画 |
個別学習指導で得られた大学生のもつ誤概念の状況や勉学に対する取り組み方に関する知見は,国内での研究成果から普遍的なものであることが判明した。そこで次年度は,個別学習指導の実践で得られた教育的に有効性の高い授業方法や教材を基にして,今年度に保留した実験器具の購入と実験教材の開発を行っていきたい。
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