本研究の目的は、中等教育における、ヒトの遺伝に関する学校教育のバリアが何であるかを探り、そのバリアに対する方策を明確にし、ヒト遺伝リテラシーの向上を目指すことである。 2018年度は、全国の医学部・医科大学に勤務する臨床遺伝専門医および東京都文京区に立地する中等教育学校で勤務する全教科にわたる教員を対象として、「人の遺伝」教育に関する意識を無記名自記式質問紙票を用いて調査した。「人の遺伝を教える必要がある」と回答した割合は、臨床遺伝専門医では97.8%、中等教育に携わる教員では71.2%であり、一部の教員から、人の遺伝を教える必要性の説明を求める意見もみられた。両者ともに「教える内容」「教える時間」が、「人の遺伝」を学校教育の場で扱うために最も必要であると回答しており、「倫理的事項への配慮」「時間の確保」「学習指導要領やカリキュラムに関する事項」が教育現場での課題として挙がった。特に教員は医療関係者に「教える内容」「正しい知識」「教員が教えてもらう機会」を求めていた。 また、本研究期間中に継続的に実施してきた、中等教育における「いのちをつなぐ遺伝のはなし」の実践授業にて、授業の前後で、遺伝および遺伝に関する研究から得られた成果の活用についての8項目を、5件法による自記式質問紙票を用いて調査した。授業後では、平均1程度の上昇がみられ、授業を受けることが生徒の興味や問題意識を喚起するきっかけとなることが分かった。また、遺伝に対する興味がわいた、遺伝子検査のことを知れてよかった、などの自由記述もみられた。スクール型に比べ、ロールプレイ型授業の方が、より生徒の興味関心および問題意識を強く引き出せていたが、各グループにサポートが必要などの課題もあり、一般化し授業を行うためには、今後も検討が必要がある。 これらの成果の一部は既に学会で報告しており、さらに学会および論文として報告予定である。
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