研究実績の概要 |
聴覚障害系の中でも多くの比率を占める感音性難聴は,聴覚末梢系である内耳の有毛細胞や内耳からの脳中枢系に接続される聴神経の機能低下・機能不全に起因する.聴覚末梢系で生じている機能低下・機能不全を客観的に推定することで聴覚障害者の個々人が持つ聴覚フィルタがどのような特性になっているかを推定し,それを再現することで個人が持つ聴覚障害の「聴こえ」の状態を模擬することが可能である.本研究では,聴覚障害を模擬するリアルタイムシミュレーターを開発することを目的とし,同時に,聴覚フィルタの推定やその再構成方法などの関連技術の構築も行う.聴覚障害の「聴こえ」が体感できることにより,聴覚障害に対する社会的啓蒙の一助になることが期待される. 感音性難聴の原因は聴覚末梢系の機能低下・機能不全に起因するが,聴覚末梢系でどのような現象が生じているかは,未だ解明されていない領域が多く存在する.断片的な聴覚障害の現象として捉えた報告[Brian C. J. Moore, Cochlear Hearing Loss Second Edition, Wiley, 2007. など]によると,聴覚末梢系の機能低下・機能不全により,聴覚障害者の聴覚末梢系には,以下の3つの機能低下現象が観測されると言われている.1.聴力閾値の上昇,2.聴覚フィルタの拡幅,3.リクルートメント(聴覚補充現象). 研究実績として,先に挙げた聴覚障害において聴覚末梢系で生じる機能低下現象に関する論文調査の実施,および,これらの機能低下現象を客観的に測定するための各種計測装置を準備した.
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