研究課題/領域番号 |
15K12423
|
研究機関 | 東北工業大学 |
研究代表者 |
岡部 雅夫 東北工業大学, 公私立大学の部局等, 教授 (20537914)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | オントロジー / 学習者適応型コンテンツ / 完全習得学習 / 反転授業 |
研究実績の概要 |
大学の基礎教育の目的の一つに専門教育が前提とする一定レベルの知識を修得させることがあるが、一方で、大学への進学層の多様化に伴い大学の基礎教育は様々なレベルの学生への対応を迫られ、その目的の達成は困難になりつつある。この問題の解決のために、反転授業を取り入れた完全習得学習が提案されているが、反転授業において予習段階で通常利用されるビデオ教材は多くの場合画一的であり、さまざまなレベルの学生に対応した学習者適応型予習用コンテンツとは言い難く、問題の解決には至っていない。 本研究は、このような問題を解決するためにオントロジーを活用した学習者適応型予習用コンテンツを現場の教員が無理なく作成できる一般的手法を開発することを目的としている。この学習者適応型予習用コンテンツは、求められる達成レベルの内容を、必要に応じ学習者のレベルに応じたより基礎的な内容にオントロジーを活用して還元することにより、様々なレベルの学生に対し予習段階において共通の知識を修得させることを意図している。 平成27年度は、基盤となる実験システムを構築し、その実験システム上で、大学初年次の情報系基礎科目を題材に、学習者適応型予習用コンテンツとそのためのオントロジーの開発を行うと共に、それを実際の授業に活用し、その評価・改善のための基礎的な情報を収集した。現在、収集した情報の分析・評価中であるが、このコンテンツを、予習だけでなく、授業、復習においても活用することにより、現状の問題の解決に寄与できる見通しが立ちつつある。このコンテンツは、軽量マークアップ言語を活用することにより、現場の教員が無理なく作成できるものであり、また、その体系化のためのオントロジーも、実績のあるアッパーオントロジーをベースに拡張することにより現場の教員が無理なく開発できるものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、当初計画通り、実験システムを開発し、その実験システムを活用し、実際に、大学初年次向け情報系基礎科目を題材に、学習者適応型予習用コンテンツおよびそのためのオントロジーを開発することが出来た。また、それを後期の授業に試験適用し、評価・改善のための基礎データを収集することが出来た。 概ね計画通り進展させることが出来た理由としては、コンテンツおよびオントロジーを比較的順調に作成・開発出来たことが大きい。コンテンツおよびオントロジーの実験システムへの登録を早期に行うため、平成27年度の実験システムの開発範囲を基本的な部分に限定したことに加え、コンテンツの作成は、現場の教員が無理なく行えることを意識して、軽量マークアップ言語であるMarkdownにより作成することとしたが、このことが実際に大学学初年次向け情報系基礎科目のコンテンツを作成する上でも功を奏した。また、オントロジーに関しては、当初は、日本語Wikipediaオントロジー等の大規模汎用オントロジーの活用も考えていたが、コンテンツの再利用性も重視し、アッパーオントロジーとして実績の豊富なBasic Formal Ontologyを一部修正しつつ活用することとした。実績のあるアッパーオントロジーを参考にしたことにより、オントロジーの開発も大きな手戻りは発生しなかった。 ただし、後期の授業への試験適用を通じての評価・改善に関しては、基礎データの収集に後期一杯掛かってしまったため、平成27年度中にはその分析・評価は完了しなかった。そのため、その有効性は概ね確認できたが、平成27年度には論文発表等には至らなかった。また、オントロジーのバックワード方式の学習に対する有効性の検証にはより多くのコンテンツおよびそのオントロジーが必要であることが明らかになり、その評価は平成28年度に持ち越しとなった。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度に関しては、平成27年度における試行およびその評価をもとに研究を発展させる。具体的には、まず、開発した実験システムに対し必要な改良および機能拡充を行う。予算上の制約も考慮し、オントロジーに対する検索機能の強化、オントロジーとコンテンツのリンクの保守性の向上、コンテンツの再利用性の向上等の一部の機能に特化して、改良および機能拡充を行う。 その上で、学習者適応型コンテンツおよびそのオントロジーの拡充を図り、提案の有効性のより精緻な検証を行う。具体的には、大学初年次向け情報系基礎科目に続く2年次向け情報系基礎科目のコンテンツの作成およびそのオントロジーの開発を行い、2年次向け情報系基礎科目において、必要に応じて、大学初年次の内容にまで戻るバックワード方式の有効性を検証する。また、同じ基礎科目であっても情報系基礎科目とは性格の異なる統計学に関してもコンテンツの作成およびオントロジーの開発を進める。情報系基礎科目では基本的な内容の理解・記憶が中心であるのに対し、統計学では数式に対する理解力が前提として求められるが、この数式に対する必要な理解力を様々なレベルの学生に習得させる上で、バックワード方式が有効であることを確認する。 以上を踏まえ、現場の教育者が無理なく活用できる学習者適応型コンテンツの作成およびそのオントロジーの開発の一般的手法を取りまとめる。 なお、平成28年度に関しては、評価が完了した内容から随時積極的に論文発表等も行っていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
以下の理由から平成27年度の実験システムの開発範囲を限定し、一部機能の開発を平成28年度に行うこととしたため。 ・コンテンツおよびオントロジーの早期登録のために基本的機能を早期に開発する必要があったため。 ・平成27年度の試行を踏まえ、平成28年度にも実験システムの改良・機能拡充を行った方が、より精緻な検証等が可能になるため。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、研究のより一層の推進のために、実験システムの改良および機能拡充に出来るだけ多くの予算を充てる。そのために、情報の整理等は出来る限り自営で行い、人件費の支出を抑制する。ただし、研究成果の積極的に公開するために、学会発表等のための旅費は確保する。
|
備考 |
EduGraphは本研究課題のための実験システムである。現在、コンテンツおよびオントロジーを拡充中であり、現在、幾つかの科目において試験適用している。
|