「作ること」は対象を理解するための有効な活動であり,学習者自身に何かしらの生成活動を行わせる「作ることによる学習」の支援は多くの研究で行われているが,対象を抽象的なレベルで記述した「概念モデルの設計」のみを学習者の課題とし,「実装モデルへの具体化」は余剰な負荷として除外されることが多い.しかし,作ることを通じた対象理解においては,概念モデルを実装モデルへと具体化し,それを評価することを通じてフィードバックを受けることが,その中心的な課題となる. 本研究では認知科学の分野において,計算機モデルの構築による人間の思考の理解を対象として,与えられた概念モデルを実装モデルへと具体化する課題の設計と支援手法の考案を行った.ここではプロダクションシステムを基盤として,人間の思考過程の概念モデルを具体化するプロセスを学習者に体験させる学習支援システムを試作した.このシステムでは,概念モデルとその実装モデルが教授者により用意される.学習者には概念モデルと,実装モデルを実行して得られる思考過程が提示される.学習者はこの思考過程に従い,概念モデルを実装モデルに具体化する.この活動は,概念モデルの背景にある思考に対する学習者の理解を深めることが期待される. 本研究では,繰り下がりのある引き算をシミュレートするモデルを,システムを用いて具体化することの学習効果を実験的に検討した.その結果,この具体化の経験がモデルの背景にある思考の理解を改善できる可能性があること,学習活動の拡張が必要であることが示された.
|